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 Vol.03


いのちをあやめる化学物質

白砂 巌
1、押し寄せるダイオキシン
あなたの身近にダイオキシン
 つい最近まで、わたしもビニール類(合成樹脂類)をゴミとして処理する時、燃やして処理することについて、重大なことが起こっているとは考えもせず、大して関心をもっていませんでした。でもダイオキシンが猛毒で、生命に重大な危害を及ぼすことは知っていました。けれど、このダイオキシン(類似物質にジべンゾフランがある)が発生するのは、ゴミの焼却炉や産業廃棄物処分場から密かに漏れ出しているだけだと考えていました。
 しかしこの認識は、重大な誤りがあったことを最近知りました。特に、ドイツにおけるダイオキシン対策の徹底ぶりを知らされて、これは大変なことだ、との思いを新たにしているところです。
 このあいだ、産業廃棄物・一般家庭ゴミの中に塩化ビニール類、塩素系漂白剤・殺虫剤やその容器がまじっていれば、これらのゴミを燃やすと、即ダイオキシンが発生するってテレビで取り上げていたけれど、あなたは知っていましたか?
 この塩化ビニール類は、それと知らなくても、わたしたちの生活道具や家具の合板のコーティングに幾らでも使われていて、わたしもかつては知って燃やしたことも、知らずに燃やして嫌な匂いの煙が発生したことで、よもやと思ったことがあります。しかし、この時、ダイオキシンが確実に発生しているってことまではわたしはウカツにも知りませんでした。
 そして、ゴミを燃やした煙や灰に混じって、出てくるダイオキシンがどうなるのか?
 私も深く考えたことがなかったが、煙とともに、大気にまじって遠くへ飛んでいくのであれば、とりあえず自分は被害を受けないですみそうすが、どうもそうではないらしい。
 埼玉県の所沢市や狭山市に産業廃棄物の処分場が集中している地域があります。その周辺を最近調査したところ、産業廃棄物の処分場地域を中心に半径4キロの範囲にわたって、ダイオキシンが土壌中に蓄積していたそうです。
 処分場に近いところはダイオキシン濃度が高く、周辺部へいくほど濃度は低くなっているそうですが、産業廃棄物の処分場地域から所沢の市街地がすっぼり収まってしまう4キロ地点のダイオキシン濃度は、ドイツの基準値では、子供をその場所で遊ばせないという値が出ているそうです。
 でも、これまで日本では農業や林業にたずさわる人が、せっせと農薬として田畑や山林に除草剤といっしょにダイオキシンを撤き、一般の人も、木材の防腐剤として使用しているのを消費者として何の注意も払わずに受入れ、庭に除草剤とともにダイオキシンを撒いてきたのですから、いまさら驚くこともないのでしょう。

ダイオキシンの発生と汚染源
 ダイオキシンやジべンゾフラン類は、それ自体を農薬とし利用しようとする意図で合成されるのではなく、塩化フェノール類やその誘導品を原料として製造される薬剤中に、不純物として混入してくる副生成物として生成されてしまうものなのです。しかも、原料の塩化フェノール類は100%純粋ではなく、かずかずの異性体の混合物なので、製品中に不純物として含まれるダイオキシンも、各種の異性体の混合物として生まれることになる。
 例えば、2.4−ジクロロフェノールを原料とする2.4−PA(2,4−D)中には、含有が予想される2.7−二塩化ダイオキシン以外にも、三〜四塩化ダイオキシン類が含まれており、4ークロロフェノール誘導品を原料とするMCPはダイオキシン類が混入されないはずだが、実際には検出された例がある。
 また、塩化べンゼン核をもつ農薬や有機塩素系農薬を焼却した場合にもダイオキシン類が生成されるので、これらの農薬の容器や農薬を散布した稲わらを燃やしただけでダイオキシンは発生しているそうです。

2.4.5−T
 除草剤登録1964年9月9日 失効1975年4月17日
 2.4.5ートリクロロフェノールを原料にするため、猛毒物質の2.3.7.8ー四塩化ダイオキシンを含む。
NlP   ダイオキシン含有量 原体中26〜52ppm
 ジフェニルエーテル系の薬剤。
 除草剤登録1963年1月23日 失効1982年6月29日
PCB(カネクロ‐ル)   ダイオキシン含有量 原体中20ppm
 現在使用されていない。
PCP   ダイオキシン含有量 原体中1.9〜720ppm
 八塩化ダイオキシンを多く含む。1971年までの大きな汚染源。発がん性のへキサクロロべンゼン(HCB)を0.4%含む。
CNP   ダイオキシン含有量 原体中0.2%強
 除草剤登録1965年2月27日
 ジフェニルエーテル系の薬剤で1.3.6.8−四塩化ダイオキシンを最
も多く含む。1971年以降の大きな汚染源。
 CNPに含まれるダイオキシン類の環境への放出は年間4トン以上で、累積140トンを超え、CNPに由来する1.3.6.8−四塩化ダイオキシンが全国各地の水田土壌に残留している。秋田大潟村・大阪府・兵庫県をはじめ、稲作防除にはCNPを使わないことにした農協が出ている。
クロメトキシニル(X−52)   ダイオキシン含有量 原体中232ppm
 除草剤登録1973年4月20日
2.4ーPA(2,4−D)
 カナダでは1ppb〜23.8ppmの二〜四塩化ダイオキシンを検出。
 カナダはタイオキシン含有量0.01ppm以下の規制処置をしたが、日本は規制なしで、製剤中のダイオキシン類の分析値も公表されていない。
ヘキサクロロフェン
 不純物として2.3.7.8−四塩化ダイオキシンを含む。2.4.5−トリクロロフ
ェノールとホルムアルデヒドを原料に合成される。
 日本では農薬登録されていない。
ヘキサクロロベンゼン(HCB)   ダイオキシン含有量 0.4〜270.2ppm(アメリカ)
 市販のHCB中に、不純物として八塩化ダイオキシンが0.35〜5.83ppm、八塩化ジベンゾフランが最高211.1ppm含有されていた。
 日本では農薬登録されていない。しかし日本では、塩素系化合物の製造過程で生ずるプロセス廃棄物中のHCB、産業及び一般廃棄物の焼却場からの放出物中のHCB、また登録農薬中の不純物として含まれるHCBが汚染源となって、環境汚染・人体汚染を引き起こしている。
MCP(MCPA)・ナトリウム塩
 除草剤登録1953年8月1日他に、アリルエステル・エチルエステル・ブチルエステル・カリウム塩・ヒドラジド化合物が登録されている。
 ポーランドでMCP製剤中に、不純物としてタイオキシン類を検出。
 MCP(MCPA)・カルシウム塩             失効1973年4月20日
 MCP(MCPA)・ペンジルトリエタノ‐ルアンモニウム塩 失効1974年8月13日
トリクロサン(イルガサンDP−300)
 ジフェニルエーテル系の薬剤で、スイスのチバ・ガイギー社が開発。
 2.4−ジクロロフェノールを原料に合成される。トリクロサンで処理された衣料品を塩素系漂白剤で処理した後、廃棄焼却すると、二〜六塩化タイオキシンが生成される。日本では農薬登録されていない。
 1988.1 チバ・ガイギー社は衣料品会社への出荷を停止した。

ダイオキシンの毒性と被害の報告事例
 ダイオキシンの毒性が日本で広く知られたのは、べトナム戦争でのことだったと思います。アメリカ軍の枯葉剤に含まれたダイオキシンの影響を受けて生まれた、べト君・ドク君が育つ姿をテレビの映像を通して見て、多くの人がダイオキシンの恐ろしさを知ったと思います。
 それにもかかわらずわたしたちは、目の前の大地や大気に蔓延しているダイオキシンについて、これまで知ろうともしないで、また知らせず知らされずに来ました。でもこのままでよいはずはない、いま、なんとか手を打たなければ、わたしやわたしの周りの自然の生命にも重大な影響を及ぼし続けることは否めないし、取り返しのつかないことになるとわたしは感じています。
 そこで、ダイオキシンの毒性について、これまで報告されている主だった事例を確認してみよう。
 1945年頃 欧米や日本の塩化フェノール類を製造または使用する工場で労働者の職業病という形で現れ、クロロアクネという塩素座瘡(にきび状の吹き出物)や肝臓障害になっている。
 1962年〜1971年にかけて、アメリカ軍の枯葉作戦によって枯葉剤(2.4.5−Tと2.4−PAの混合剤)1770万ガロン(1ガロン3.785リットルでドラム缶33万4972本分に相当する)がべトナムでまかれ、この中に含まれている毒性の強いダイオキシンは、170Kgとも550Kgとも推計され、しかも、散布後の枯葉剤の一部は、アメリカ軍のナパーム弾によるジャングル焼却にともない、ダイオキシン化している。
 1970年以降現在に至るまで、べトナムでは、これらのダイオキシン類が、流産、胞状奇胎、先天異常などの増加と、肝臓ガンの発生率を高くした原因となっている。また、枯葉剤に被爆した兵士や市民の体組織中には、先進国の住民の約3倍のダイオキシンの蓄積がみられる。
 一方、加害国アメリカでも、枯葉剤(2.4.5‐Tと2.4−PAの混合剤)を製造した工場周辺の土壌や水質、魚介類汚染が1976年頃から発覚し、住民の立ち退き騒ぎもおきている。
 また、枯葉剤を浴びたべトナム帰還兵の中にも、ガンや子供の先天異常が発生し、男性の生殖系にも影響を与えていた。
 1976年7月のイタリア。セべソの2.4.5ートリクロロフェノ‐ルの製造工場の爆発事故 この事故で飛散した2.3.7.8−四塩化ダイオキシンは、小動物や家畜を多数死亡させたばかりか、被爆した住民も皮膚障害のクロロアクネ(塩素座瘡)や肝臓障害を引き起こし、その後、流産・先天異常の発生率の増加が報告されている。
 工場周辺は、10年後(「農薬毒性の事典」三省堂の記述)もダイオキシン類の土壌汚染が続き、人が住めない状態になっている。
 ダイオキシンの毒性については、動物実験でも、発がん性・生殖系障害・催奇形性・免疫毒性・肝毒性などが知られている。

2.4ーPA(2,4−D)の人体中毒症状
 頭痛、咽頭痛、胸部後部痛、胃痛、めまい、意識混濁、けいれん、失禁、体温上昇脈拍増加、血圧降下、肝腎機能障害、皮膚障害、目・鼻・咽頭・気管の灼熱感
2.4.5ーTの人体中毒症状
 2.4.5−Tの製造工場(日本では三井東圧)の労働者にクロロアクネや肝臓障害が現れる。
 アメリカ・オレゴン州の空中散布で流産多発。べトナムでは1970年前後から肝臓ガン、流産、先天異常の多発が報告。
CNPの人体中毒症状
 生産されたCNP原体(三井東圧大牟田)を製品化していた三西化学(1961年操業 福岡県久留米市 1983.7操業中止)周辺で頭痛、鼻血、下痢、のどや眼の痛み、肝腎障害に住民がなやまされていた。三井東圧と三西化学は農薬の毒性試験データを公表せず、農薬と健康被害との因果関係を否定して裁判で係争。
 住民の調査では、工場周辺の住民にガンによる死亡率が増大していたといいます。
MCP(MCPA)の人体中毒症状
 咽頭痛、胸骨後部痛、胃痛、頭痛、めまい、意識混濁、けいれん、失禁、体温上昇、肝腎障害、皮膚障害、目・鼻・咽頭・気管の灼熱感
NlPの中毒症状
 残留農薬研究所でサルモネラ菌で変異原生。
 アメリカの研究でマウスに肝細胞ガン、ラットに膵臓ガンを発生。日本のメーカーは発ガン性の事実を公表することなく製造廃止に至る。
PCPの中毒症状
 日本では水田に除草剤として使用された時に年間数百件の魚毒死事件を起こした。
 1957年アメリカ PCPに含まれたダイオキシンが原因で雛鳥の水腫が発生し、数百万羽のブロイラーが死亡。
 人体中毒症状食欲不振、甘味嗜好、多量発汗、不眠、倦怠感、脱力、頭痛、神経衰弱様訴え、関節痛、胃腸障害、皮膚の発赤、クロロアクネ、黒皮症、眼の結膜炎。
クロメトキシニル(X−52)の中毒症状
 頭痛、手足のしびれ、眼の充血と痛みなど
ヘキサクロロフェンの中毒症状
 ラットの動物実験で中枢神経障害を起こした。
 1972年フランス へキサクロロフェンを6%含んだべビーパウダーで40人の赤ちゃんが死亡。
 スウェーデン消毒用殺菌剤として使用した病院の看護婦の子供に先天異常が多発。
 1971.12厚生省は、新生児や乳幼児の沐浴等の外用液剤として、皮膚の発赤。刺激感などの過敏症状が現れた時、広範な創傷や火傷の損傷皮膚に使用しないことを通達。
へキサクロロベンゼン(HCB)の中毒症状
 1955〜1959年HCB汚染小麦による中毒(トルコ) HCBを10%含む殺菌剤で消毒された種子が食用にまわり、皮膚の光感受性の亢進(顔や手足など日光に当たる部分の皮膚に水泡が生ずる)を始め、皮膚の脱色、多毛症、尿中ポルフィリンの増大、肝臓や甲状腺・リンパ腺の肥大、体重減少、手足・指・爪先の骨の退化などの中毒症状(PCT症状)が現れ、トルコ政府がHCB殺菌剤の販売を中止するまで、中毒による死亡者は3000〜5000にのぼったといわれ、16歳以下の子供が90%を占めていたという報告がある。
 1967年サウジアラビアで多量のHCBがパンに誤って混入。腹痛、嘔吐、精神錯乱、けいれんなどの急性中毒になり、49O人が入院、うち7人が死亡。
 HCBを取り扱う労働者の中に、PCT症や尿中ポルフィリンの増大が多数報告。
 動物実験で、ハムスターに甲状腺や肝臓の腫瘍が発生、妊娠マウスでは胎児に口蓋裂や腎奇形が観察されている。

こんなところにもダイオキシン
 ところでゴミを燃やして出るダイオキシン類が一体どこに行くのか、気にとめていた人はこれまであまり多くはなかったでしょう。多くの人は、風雨にさらされて分解でもするのだろうと、思い込んでいた人が多かったかもしれません。ところがどっこい、これらのダイオキシン類、分解もせず、農薬本体の一部とともに土壌中に溜まりつづけているのです。
 例えば農薬PCP起源のダイオキシン類は、この農薬の多量使用時代(1955.4.6殺菌剤登録 1957・3.30除草剤登録)が終わった13年後にも残留が確認され、農薬CNP(1965.2.27除草剤登録)に由来するダイオキシン汚染でも、宮城県産のシジミから最高39ppb(10億分の1)のダイオキシンが検出されています。
 また1986年の環境庁の調査でも、東京湾のぼらと大阪湾のスズキから1ppt(1兆分の1)のダイオキシンが検出されています。
 1986年のデータですが、食品からは、鶏肉33.9ppt・卵27.7ppt・豚肉16.1pptをはじめ、牛肉・魚・植物油・野菜・米麦からもダイオキシン類は検出されています。
 1978〜1984年のサンプル調査 日本人の体脂肪や母乳からダイオキシン類が検出されています。この調査の母乳に含まれるダイオキシンの割合から、1日に摂取する母乳量から推計される赤ちゃんのダイオキシン取込量は、初産婦母乳で250ピコグラム(ピコは1兆分の1グラム)/Kg体重/日、経産婦母乳で160ピコグラム/Kg体重/日と計算され、既に欧米に比べて甘い日本の1984年当時の評価指針(危険性の目安として厚生省が作った言葉)100ピコグラム/Kg体重/日を越えていた。
 1996.11.16付朝日新聞の記事 全国10ヶ所の都市ごみの焼却施設で働く男性作業員60人の毛髪から、ごみの焼却にたずさわらない大阪府内の理髪店で集めた男性82人の毛髪と比較して、より高い濃度のダイオキシンが検出された。記事ではこのダイオキシン濃度は明らかになっていない。報告・摂南大薬学部・宮田秀明教授
 1997.1.13付朝日新聞の記事 アメリカサウスフロリダ医大シェリー・リール博士が行った猿の動物実験(1993年発表)で、ダイオキシンを摂取した場合の子宮内膜症の発生率を調べたところ、1キロの餌にダイオキシン25ナノグラム(ナノは10億分の1グラム)を混ぜた猿では7匹中5匹、5ナノグラムを混ぜた餌(この餌は体重1キロ当たり126ピコグラム)では7匹中3匹に発生し、ダイオキシンをまったく混ぜない猿では子宮内膜症は発生しなかったという結果が出た。なお、子宮内膜症にかかった女性は、流産しやすくなり、日本でも子宮内膜症にかかる若い女性が増えているといいます。
 そこでオランダでは、この実験データをもとに人間の体重1キロ当たりの一日耐容摂取量を1ピコグラムとするよう政府に答申したが、日本の環境庁の検討委員会は、指針値を5ピコグラムとする甘いものでした。
 このようにダイオキシン類は、水、大気、土壌、河川や海の底質などの自然界に放出され、放出された農薬やダイオキシンが、田畑の農作物に蓄積し、それを食べた家畜やほかの動物・昆虫の体内に蓄積し、川の水に混じったダイオキシンが、川の生物に蓄積し、海に流れたダイオキシンが、魚介類に蓄積しているのが確認されており、海草にも蓄積されていることは確実です。
 さらに地下水や水道水に混じったダイオキシンと、人間の食物に混じったダイオキシンが、めぐりめぐって少しずつ少しずつ人間の体に入って、母乳や人体組織にも蓄積が確認されていることを見ると、わたしたちの体には、すでに微量ながらもダイオキシンは入り込み、蓄積されていると見ていいはずです。
 このダイオキシンが一定の量を越えた時、わたしたちの体はいのちの営みのバランスを失い、これが子供のいのちにまで影響を及ぼすことになるのです。いや、すでに影響を及ぼしていると言っていいでしょう。

無農薬・有機農業なら安全といえるか?
 結論をいえば、「100%安全だ」とは言えないし、言うべきでないと思います。それは、このダイオキシン類を筆頭に農薬や他の化学物質の影響から、わたしたちは完全には逃れきれないからです。
 もちろん農薬を直接、農産物に吹き付けるかどうかでは、決定的な違いはあるにしても、有機農業をやっている田畑でも、土壌や大気・水に含まれて周辺から流れてくるダイオキシンや農薬の影響を全く受けずにいることはできない。
 しかも多くの場合、自分の田畑の残留農薬や残留ダイオキシン類の検出をほとんど行っていないのが実情だから、実際には1O0%安全だという保障を誰もできないのです。
 また自家配合飼料で飼育の有精卵や放し飼いの鶏肉にしても、飼料に農薬やダイオキシン類がまったく含まれていないことが明らかでない限り、100%安全なものはなく、卵や鶏肉にも少なからず農薬やダイオキシン類が残留していることを否定できない。

まだまだ増えるダイオキシン
 しかもおめでたいことに日本では、現在もゴミ焼却炉や産業廃棄物処理場からダイオキシンは煙とともに毎日散布され、わたしやあなたが塩化ビニール類を他のゴミに混ぜて小型の焼却炉などで燃やした時にも、ダイオキシンを発生させているのです。
 最近の発表で、ゴミ焼却炉のダイオキシン発生率は、焼却炉の燃焼温度が300°Cの時最高になり、600°Cの時最低になるので、ゴミの焼却温度を600°Cにする対策で、厚生省は決着をはかろうとしていますが、それでもダイオキシンは発生し、その一部は周囲の環境に撒き散らされていることに変わりはありません。
 厚生省は、ダイオキシンの発生率を抑えればすむ問題(人体に影響はない)であるかのように処理していますが、産業及び一般廃棄物の焼却場から出る有害物質はダイオキシンだけでなく、へキサクロロべンゼン(HCB)が放出されているのが確認されており、日本では産業及び一般廃棄物の焼却場がHCBの汚染源となって、環境汚染・人体汚染を引き起こしているのです。
 また、少ないダイオキシンが蓄積されていく状態での毒性については無視しているのが実情です。
 いま日本は長寿国だと言っていますが、実際には日本の大気・大地・水は、人間が早死にするのにとても良い環境になるレールを突っ走っていると言えるでしょう。皮肉にも、これからの世代は、老後を心配する必要がなくなる人が増えることでしょう。
 肝臓病が増え、さらに肝臓がんになること間違いないからです。また、免疫機能の低下から感染症にかかりやすくなり、これまでなんともなかった細菌の感染によっても死に至るケースが増えることでしょう。
 また、許容範囲(この数値は判っていない)以上のダイオキシン類を体に取り込んだ人は、自分の子供にまで、その影響を伝えることになり、体の変形・内臓などの機能障害・がんに見舞われることになります。
 これまで蓄積されたダイオキシンが、日本中に充満している事態は、いまさら変えようがありません。でも、いのちを危うくするダイオキシンなどの物質を、これ以上この地球上に増やさないようにすることは、今からでもできます。それでもあなたは、せっせとダイオキシンを地球上に溜め込む努力をつづけますか?

それでもあなたはダイオキシン?
 塩ビ(塩化ビニール)燃やして吸い込むダイオキシン。
 塩ビ(塩化ビニール)燃やして大地も水もダイオキシン。
 ダイオキシンこれで老後の憂さも消え。
 ダイオキシン増やしてあなたも早死にを。

参考資料:「農薬毒性の事典」三省堂刊
 今回の文章では「農薬毒性の事典」三省堂刊から文章やデータを多く引用しています。そこで、多用したデータの中には現在では検出されない数値があると思います。その点ご承知おきください。また気づかれた点があったり、最近の検査データをご存知の方はお教えくだされば幸いです。


2、気がつけばエストロゲンの海の中

 わたしたちは農薬やダイオキシンの被害以上に、もっと深刻な環境汚染の中で生活していることを、私は最近になって知りました。ここ数年の間に、ダイオキシンと同じかそれ以上に厄介な環境汚染が起きていることが確認されています。
 先頃「精子が減っていく」という報道番組(英国BBC放送が作成)がNHKの衛星放送で放送されました。この番組で、イギリスを始め、ヨーロッパやアメリカの化学者や医学の研究者の調査で、人間が、農薬や化学物質として消費し、地球環境に放出した物質の中に、女性ホルモンと同じ作用を及ぼす物質(エストロゲン類似物質)があり、これが人間や捕食動物にさまざまな影響を及ぼしている事実を放送していました。
 NHKの総合放送でもこの問題を取り上げ、衛星放送で再放送もしたので、見られた方もいたのではないかと思います。
 以下、その放送の内容を文章にまとめました。

人的被害と生命機能を破壊するメカニズム
 5年前デンマークの科学者たちが、人間の精子の異常に気づいて研究を始めました。頭部が変形したもの。尻尾のないもの、逆に尻尾だけのもの、尻尾が二本あるもの、動きすぎる精子もあれば、まったく動かない精子も確認されています。
 コペンハーゲン大学ニールス・スカケべク教授は、健康な若者の精子に5O%以上も正常でないものがあることに気づきました。そこで調査を始めた教授のチームは、1930年代にまで逆上った精子の数に注目しました。そして過去50年で精子の数が大幅に減っていることが判明した。一回の射精ごとの精子の数はこの50年間で、約半分になっていたし、精液自体の量も減っていました。
 1996年2月、精子の数の減少に関する新しい事実が公表されました。もし精子がこのまま減りつづけていけば、そう遠くない将来に多くの男性に生殖能力がなくなってしまう。そうなる可能性はかなり高いというのです。
 イギリスのエジンバラ医学研究所ではアービン博士が、18歳〜45歳の男性500人以上を対象に調査を行いました。この調査でも、スカケペック教授の論文を裏付ける結果が出ました。精子の数は過去20年間で25%減少していたのです。
 1950年代生まれの男性の精液のサンプルでは、精子の数は多く、動きも活発です。1950年代生まれの男性の場合1ミリリットルあたりの精子の数は1億あったものが、1970年代生まれの男性の場合は平均7500万に減っていて、動いている精子はさらに少ないそうです。
 1990年代生まれの男性が成人した時の精子の数は、1ミリリットルあたり5000万になってしまうでしょう。一般にこの数が2000万以下になるとその男性は生殖能力を発揮できないと考えられています。このままの割合で精子の減少が進めば、次の21世紀に生まれる男性は、子供を作れないことになりかねません。
 地域による差はあるものの、ヨーロッパのいくつかの研究所が、同様の結果を発表しています。
 ブリュッセル、パリ、エジンバラの調査で、精子の数が減少していることが裏付けられました。過去20年の間、毎年2%づつ減少しているという報告もあります。精子の数はもうすでにかなり減ってしまっています。男性の生殖能力に影響を及ぼす限界の数にまで達しようとしているのです。しかもそれは特定の地域に限ったことではなく、かなり広い地域にまたがる現象なのです。
 スカケべク教授の論文は、直ちに論争を引き起こしました。
 この論文は、すでに公表されたデータの統計的分析にすぎなかったので、批判の的になりました。この時の批判の多くが、産業界から出ていたそうです。
 1993年、エジンバラ医学研究所のシャープ博士とコペンハーゲン大学のスカケべク教授は、生殖に関する別の深刻な事態に気づきました。
 第1に、過去30年の間にイギリスとアメリカで精巣腫瘍(睾丸のガン)の発生率が3倍になっていたのです。デンマ―クでも精巣腫瘍が50年前の3〜4倍に増えており、世界で最高の発病率となっていました。
 第2に、男の赤ちゃんの間で、停留精巣という障害も増えていました。精巣つまり睾丸がお腹の中に止まってしまい、正常な位置に下りてこないのです。
 第3に、男の赤ちゃんに見られる尿道下裂という生殖器の異常です。極端な場合は、男女両方の性の特徴を併せもった半陰陽の状態になってしまうのです。
 停留精巣、精巣腫瘍、尿道下裂、これらの間には何か関連があるのです。そしてこうした病気の増加は、精子の減少の増加と何か関連があるのかと考えました。
 精子が作られる過程で何かが起こっていて、大勢の人に影響をもたらす変化が確かに起こっている。でもその原因が何かなかなか判らなかったが、エジンバラ医学研究所のシャープ博士が、偶然目にした論文で謎が解明されました。
 それは、セルトリ細胞に関する論文です。セルトリ細胞は、精子を作る他の細胞を保護する働きがあります。発育の重要な段階で形成されたこのセルトリ細胞の数が、成人になってからの精子の生産量を決定しています。
 セルトリ細胞は、発育段階において支配的な役割を果たし、精巣すなわち睾丸を硬化させ、生殖器に男性の特徴を持たせ、尿道を発達させる働きがあります。精巣の発育段階では、その細胞分裂をつかさどります。この段階での異常が精巣腫瘍を発生させると考えられています。
 これですべての断片的な事柄がっながりました。精巣腫瘍・停留精巣・尿道下裂・そして精子の数の減少。こういったことすべてがセルトリ細胞に着目することによって、みごとに関連づけられたのです。そこで一連の生殖器の異常や精子の減少を引き起こしている原因を探るためにはセルトリ細胞に悪影響を与えているものを探ればいいのではないかと研究者は考えたのです。

明らかになった野性動物の被害の事例
 一方、野性動物の世界でも人類と同じような生殖器官の異常が起きています。アメリカフロリダ州・アポプカ湖で科学者のチームがワニの減少を調査していた時のことです。科学者たちは、ワニに重大な変化が起きていることを発見しました。
 彼らは、まず沼地のワニの巣を調べて回りました。どの巣にも異常な卵が見つかりました。アポプカ湖の卵の75%が死んでしまったか無精卵だったのです。また、多くのワニが性転換していました。雄のワニの少なくとも25%は生殖器が異常でした。陰茎が極端に小さく、本来の半分かあるいは3分の1くらいの大きさで、しかも変形していました。
 この湖の亀も、多くの雄がめすの生殖器を持ち、高い濃度の女性ホルモンを分泌していたのです。
 フロリダ大学 L・ギレットの調査によれば、アポプカ湖に住む動物全体の20%が雄と雌、両性の状態にありました。
 五大湖でも主だった捕食動物のうち少なくとも16種が生殖機能に異常を来しています。アメリカでは、年老いた固体しかいないチョウザメの群も見つかりました。つまりその群は子孫を残していないのです。
 五大湖の魚では、雄の魚は性的に成熟していません。半陰陽の状態なのです。注意して見ると雄と雌両方の性腺をもっている魚もいます。特に工場の排水が流れ込むところでこうした異常が多く見られます。親が汚れた水の中で暮らしているので子孫にその影響が現れたのです。
 イギリスの川でも、数年前から下水処理場の下流で雄と雌の生殖器をもった魚がたくさん見つかっています。
 科学者たちと農業省の共同調査で、雄の魚を下水処理場の排水口に3週間放置したのち、血液のサンプルを取ると雄の魚が大量の卵黄たんばく質(ビテロゲニン)を生成していました。普通このたんぱく質を生成するのは雌だけです。雄には性の転換がおきていたのです。
 彼らはイギリスの28箇所の下水処理場で調査を行いましたが、すべての調査地点で同じような結果がでました。
 これは、特定の地域の特殊な現象ではなく、どの地方にもはっきりと現れている現象なのです。こんな驚くべき現象が起きるのは、下水処理場から流れ出る排水の中に、魚にとって女性ホルモンの働きをする物質が含まれているからです。
 以前(97.2頃)摩周湖のザリガニ(アメリカから輸入)を捕獲して、雄雌の生存比率を調査(どうぶつ奇想天外(TBS)という番組の中で)したところ、2回ほどの捕獲で1回ごとに雌68〜70匹に対して雄2匹くらいという生存比率が確認されました。
 これについて、番組ではその原因を追求していなかったが、日本でもイギリスやアメリカで雄の魚やワニが雌化している現象が、かつては秘境と言われた、人里離れた北海道の山の中の湖でも起きているのではないでしょうか。
 この女性ホルモン(エストロゲン)類似物質が、魚の受精卵にも影響を与えているとしたらどうでしょう。まだ日本で調査した人はいないようですが、卵の段階で影響を受けた魚が、ほとんど雌に変化してしまうとしたら‐・。雌の生存比率が圧倒的にふえ、雄が減るという現象(摩周湖のザリガニに現れている現象はこれにあたるのではないでしょうか)がおき、次世代には受精できない卵が増えることになりはしないだろうか。
 ぜひ、調査できる人はやってみてください。そして、結果を教えていただけると有り難いのですが。

女性ホルモンの作用を持つ化学物質
 一体何がセルトリ細胞に影響を与えているのでしょうか。セルトリ細胞は、一般に発育段階に女性ホルモン「エストロゲン」に過剰にさらされると、異常が起きやすいと考えられています。セルトリ細胞の発育が抑制されたり、さらにはセルトリ細胞の数が少ないままで固定されてしまうこともあるのです。
 このような異常が現れるのは、ホルモンの体系が影響を受けているのではないかと考えた科学者が、さらに追求を重ねました。
 母親の体内にあるエストロゲンは、胎児の発育を阻害することはありません。いま疑われているのは、他の化学物質がエストロゲンのような働きをしているのではないかということです。エジンバラ医学研究所のシャープ博士は悲劇的な調査結果を見つけました。
 1950年代〜1980年代にかけて、ヨーロッパで600万人もの妊婦にDESという合成のエストロゲンが流産防止のため投与されていたのです。その薬を投与された母親から生まれた男の子について調べると、やはり、生殖器官の異常が普通より多く見られました。
 一方、ノースカロライナの研究所では、合成のエストロゲンDESと男性の生殖障害の関連を調べる実験が進んでいました。マクロクラン教授は、妊娠中のねずみにDES(合成エストロゲン)を投与してみました。すると、胎児の発育に重要な時期にDESを2日間投与しただけで、深刻な影響があらわれることが判りました。
 この実験で最もショックを受けたのは、生まれた雄のねずみを観察した時でした。このねずみたちは、雄と雌の生殖器官をつなぎ合わせに持っていて、半陰陽の状態になっていました。ねずみでも、人間でも、受精した段階では両方の性になる可能性を併せもっていて、そこからどちらかの一方の性が発達していくのです。
 ところが、ごく初期の段階で、DESに曝されると、正常な雄への発達ができなくなってしまうのです。
 一連の生殖器官の異常はやはりエストロゲンが原因だと判りましたが、DESの投与と関係のない一般の男性の場合には、どのようにしてエストロゲンが体内に取り込まれたのでしょうか。現代生活のどのような側面がエストロゲンの影響を増大させているのでしょうか。人間のセルトリ細胞は胎児の段階から思春期まで発達を続けるため、思春期までのあらゆる影響を考慮する必要があります。
 化学者たちはまず食生活の変化に注目しました。過去50年間に食生活は大きく変化しました。脂肪やたんばく質の摂取量は増加し、食物繊維の摂取量は減少しました。そのため、体内から排出されるべきエストロゲンが再吸収されるようになってしまったのです。
 エストロゲンの過剰をもたらしているのは何か。食生活の変化は立証できないとはいえ一つの答えかも知れません。間もなくエストロゲンの過剰をもたらしている別の原因が判明しました。
 1950年代に広くに散布された殺虫剤DDTでした。まもなく有害性が指摘され多くの国で使用禁止になりましたが、それは土や水の中に残りました。
 フロリダ州のアポプカ湖ではまさにその現象が現れていました。この湖は10年前にDDTから作られた殺虫剤によって汚染されました。しかし現在は公式には化学薬品による汚染はないとされています。エストロゲン類似物質は、湖の水質検査をしてもそれほど検出されません。摂取した動物の脂肪に蓄積する特徴があるからそれらは水の中にではなく、動物の体内に蓄積されているのです。
 エストロゲンと同じ働きをする一連の殺虫剤が川の水から検出されたが、それほど大量ではありませんでした。しかし間もなくまた別のエストロゲンと同じ働きをする化学薬品があることが判りました。結果的には異なった分子構造を持つ多く物質がエストロゲンと同じ働きを持つことが判明したのです。
 BHC(酸化防止剤)・DDT(殺虫剤)・DDE(DDTが分解してできる)・DES(合成エストロゲン)・悪名高いPCB・エンドスルファン(殺虫剤)・クロルデコン(殺虫剤)・ケルセン(殺虫剤)・ディルドリン(殺虫剤)・トキサフェン(殺虫剤)・フェニルフェノール(果実・野菜の防腐剤)・へプタクロル(殺虫剤)・メトキシクロル(殺虫剤)などがありました。
 わたしたちはエストロゲンの海の中で生きているのです。
 また、アメリカのタフツ大学で乳がんの研究をしていた科学者が殺虫剤とは全く別のエストロゲン類似物質を偶然発見しました。
 乳がんの研究のために乳がん細胞を培養していると、それが突然増殖しはじめたのです。この増殖を促したのは、エストロゲンとしか考えられませんでした。そこでエストロゲンによる汚染が起きたと仮定して徹底的な調査に乗り出しました。
 4ヶ月後血清を入れていたプラスチックの試験管容器から、エストロゲンの働きをする物質がしみだしていることを発見しました。製造会社に連絡をすると何ケースか試験管を提供してくれました。その原材料を確認しようとしたんですが、彼らは企業秘密だといって教えてくれませんでした。
 タフツ大学のソト教授は分析を続けました。そしてついにプラスチックからしみだしている物質を突き止めたのです。それはノニルフェノールという化学物質でした。
 ノニルフェノールは、プラスチック産業で酸化防止剤として広く使用されている化学物質です。洗剤や避妊用の殺精子剤にも使われています。これまでこの物質はエストロゲンの働きをするとは考えられてきませんでした。安全な原材料として非常に幅広く使われてきたのです。
 ノニルフェノールは、魚の異常が見つかったイギリスの川でも検出されました。その濃度は1リットルあたりわずか50マイクログラムでした。そこで、ブルーネル大学のJ・サンプター氏は、これと同じ濃度のノニルフェノールを加えた水の中に、正常な魚を入れてみました。すると川に魚を放置した時と同じ現象が起こりました。雄の魚が大量の卵黄たんばく質を生成したのです。
 人間の男性もこの魚の雄と同じようにノニルフェノールの影響を受けているのではないでしょうか。始めは、飲料水を通してこの現象が人間にも広がっているのではないかと考えたが、全くの偶然からカリフォルニアの研究室で別のエストロゲン類似物質が見つかりました。この物質もプラスチックからしみだしていたのです。それはビスフェノールAという物質でした。
 さらにサンプター教授のチームは、プラスチックに含まれるエストロゲンの働きをする第三の大きなグループを発見しました。フタル酸エステルと呼ばれる一連の化合物です。
 フタル酸エステルというのは、フタル酸とさまざまなアルコールとの結合によってできる化合物で、あらゆる種類のプラスチックに広く使われています。この影響を避けるのは非常に困難です。
 これらの化学物質をごく僅かな量、妊娠中のねずみの飲み水に加えてみました。その結果プラスチックに含まれる三つのグループのエストロゲン類似物質すべてが、生まれた雄のねずみに重大な影響を及ぼすことが判りました。精巣の大きさは15%縮小し、精子の数は20%減少したのです。
 この実験では、1リットルあたり1mgねずみの母親の飲み水に加えただけでしたから、まったく影響が出ないと研究者は考えていました。ところがそんな僅かな量与えただけで子供に影響が現れたのです。何度も実験を繰り返しましたが、結果は同じでした。この実験結果から、人間の場合も、同じ化学物質を同じ程度の割合で摂取すれば生殖機能に同様の影響が現れることが予測されます。
 人間がこれらの化学物質を摂取しているとすればそれはどのようにしてでしょうか。
 タフツ大学のソト教授はスペインを訪れた際に、非常に身近な食品に問題の化学物質が含まれている可能性があるのを知って驚きました。多くの缶詰の内側には、プラスチックのコーテングが施されています。そこにビスフェノールAが含まれていて、それが缶詰の中身に溶けだしていたのです。これは憂慮すべき事態です。わたしたちは人工のエストロゲンを含んだ食品を食べているのです。
 ビスフェノールAがプラスチック類から溶けだすという情報は、グラナダの歯科学校に伝わりました。子供の歯を虫歯から守るために使われるシーラントや虫歯の詰め物に使われる白い樹脂にもビスフェノールAが含まれています。そこでシーラントを施す前と後の患者の唾液を分析し、ビスフェノールAが含まれているかどうかが調べられました。
 その結果かなりの量のビスフェノールAがシーラントを施した後の唾液から検出されました。これは非常に心配なことです。エストロゲン類似物質が多量に唾液に含まれているということは、いずれそれが、血液に吸収されるということを意味するのですから。
 私たちが口にしているエストロゲン類似物質はビスフェノールAだけではありません。
 もっとも気掛かりなのは、これらの化学物質の作用は累積するという証拠が出ている点です。ですからこれらの化学物質の影響を個々に考えるのではなく、すべての化学物質によってもたらされる総合的な影響を考慮する必要があります。
 ソト教授のチームは、乳がん細胞の成長の度合いを測定することによって化学物質中のエストロゲンの強さを数値化する試みに挑戦しました。こうすれば、個々の化学物質と混合物とで数値を比較することもできます。
 タフツ大学のA・ソト教授たちは、一連の化学物質をごく僅かな量ずつ使って実験しました。それはエストロゲンの反応が現れないほどに僅かな量です。ところがそれらの化学物質10種類を混ぜ合わせると、完全なエストロゲンの反応が現れました。乳がん細胞が増殖したのです。場合によってはその作用は単に個々の化学物質の作用を累積しただけではなく、各物質の作用の合計より大きいこともありました。
 さらに心配なのは、実験室の乳がん細胞に起こったことが、女性の体の中でも起こるかもしれないということです。ニューヨークの科学者たちは、過去50年間に、乳がんが劇的に増加したのは、これらの化学物質と何らかの関係があると考えています。
 エストロゲンが乳がんと関係あることは明らかですから、環境の中に存在する大量のエストロゲン類似物質が、生殖器のガンに影響を与えないはずがありません。
 これを検証するため、マウント・サイナイ医科大学のM・ウルフ博士は、乳がん患者の血液と健康な女性の血液を分析し、エストロゲン類似物質の一つであるDDTの濃度を比較しました。
 分析にはまずその女性が乳がんかどうかという知識を持たずに、DDT濃度を調べました。そしてそれを統計的に分析したところ乳がんと深い因果関係があることが判ったのです。血液中のDDT濃度が上位10%に入るグループは、乳がんにかかる確率が4倍になるという結果がでたのです。
 この結果を見ればDDTのようなエストロゲン類似物質は、乳がんの発病に大きく関与していると言えるのではないでしょうか。
 乳がんの発病に関して、DDTが新しい危険因子であることは十分考えられますが、DDTのレべルは、女性が本来生成するエストロゲンに比べて非常に低く、影響を与えるほどではないという意見もあります。しかし、DDTが分解されてできるDDEの血中濃度は、本来体内を循環しているエストロゲンの10倍から100倍もあります。これらの化学物質は本来のエストロゲンよりもずっと長く体内にに止まり、繰り返し作用する可能性もあるのです。

エストロゲン類似物質に関する対策
 しかし、この問題の規模は想像を超えるものです。世界経済のかなりの部分が、化学工業やそこから派生した製品によって支えられています。

米厚生省元顧問 D・ディビスの発言
 「この問題は現在のワシントンではかなり真剣に受け止められています。アメリカの環境保護庁は、ホルモンに悪影響を与える化学物質の徹底調査を最優先課題に据えています。さらに厚生省の長官も乳がんに関する大規模な実行計画を発表しました。その計画では、環境と乳がんとの関係だけでなく、ホルモンの異常に起因する他の疾患との関係も調査することになっています。」
 アメリカの議会は、エストロゲン類似物質の可能性があるものにはすべて審査が必要であるという法案を可決しました。審査の費用は化学物質の製造業者が負担し、それに応じなければその業者の製品は市場から回収されることになっています。
 イギリスでは、そのような法案はまだ可決されていませんが、化学工業の業界は、この問題にはさらなる調査が必要だと認めています。しかし、イギリスの保健省は、静観しています。いますぐ問題がおきる心配はない。EUの委員会が2年後に調査結果を発表するまで、対策は講じられないというのです。

エジンバラ王立病院 S・アービンの発言
 「もし精子の減少傾向が続くとしたら、80年代・90年代に生まれた男子が成人する頃、精子の数がどうなってしまうのか誰にも判りません。しかし、このまま様子を見ていて20年先30年先に精子の数が減っていることを確認するというようなことだけは避けなくてはなりません。わたしたちはいますぐこの問題に着手しなくてはならないのです。」

タフツ大学 ソト教授の発言
 「しばらく様子を見るというのでは危険すぎます。20年後に孫がわたしの所へやってきて、動物たちに異常が起きていることを知っていたのに、どうして手を打たなかったのか詰め寄る光景が目に浮かびます。その時、この現象が人間にも起きるのを確認しようとまっていたのですと言えますか。答えはノーでしょう。わたしたちはいますぐ手を打たなくてはならないのです。」

米厚生省元顧問 D・ディビスの発言
 「わたしたちは、不本意ながら、便利さの代償を払わされるハメに陥ってしまったのです。つまり乳がんや精巣腫瘍が増え、生殖能力が衰えてきたのは、豊かな現代生活の代償だということです。早い車とかプラスチックとかいった便利なものを享受する代わりに、病気を引き受けなければならないのです。わたしはそんな取引には応じません。乳がんを患っている女性もそうでしょう。これから父親になりたい男性も、便利さと引換えにそのチャンスを諦めるつもりはないでしょう。これは地球上すべての生物の危機です。生物の存続を脅かす証拠を見過ごすのはあまりにも危険です。」

エジンバラ医学研究所 R・シャ―プの発言
 「この問題は疑わしい化学物質をすべて禁止すればいいというような単純なものではありません。問題の化学物質は、現代の日常生活に欠かすことのできない多種多様な製品に使用されているのです。これらの物質をすべて排除するということは、生活様式を根底から変えなくてはならないということなのです。」
 イギリスの農業省は、取材班に対していますぐ問題が起きるとは考えられず、食品名の公表は必要ないと語っています。だが、農業省は検査した包装材の名前や食品名、そしてそれに含まれていたフタル酸エステルの量をすべて公表すべきだと思います。


3、今後の生活をどう組み立てるのか

 私たちはどのような自衛策をとればいいのでしょうか。
 農薬は除草剤にしろ、塩化べンゼン核をもつ農薬や有機塩素系農薬にしろ、容器などに入っていればそれと判って、今後は使わないようにすることはできます。けれど、問題は塩化ビニール類です。塩化ビニールを燃やさないといっても、他のポリエチレンなどと区別がつかないことが多いのです。実際、どの製品のどの部分に塩化ビニール類が使われているとか、この製品は塩化ビニール類以外の物質が使われているといった知識を持つことも必要です。
 それでも、ビニール類の分別は完全にはできないでしょう。
 そこでとりあえずの対策として、「塩化ビニール製のものは買わない。塩化ビニールを包装などに使わない。塩化ビニール製のものは店に置かない。塩化ビニールを使わないですむものは別のものに変える」などを自分から実行して、できるかぎり塩化ビニール類のものをゴミとして出さないようにすることはできます。

ダイオキシンを含む農薬の用途ならびに製品名
2.4.5ーT  除草剤・植物成長調整剤
 日本では林野庁が68〜70年にかけ国有林で2.4.5−T系除草剤を散布した。使用禁止後、林野庁は在庫品を土中に埋設するズサンな処理で2.3.7.8−四塩化ダイオキシンの土壌汚染が各地で確認されている。
 商品名 ウィードン2、2.4.5−T。
 2.4−PAとの複合剤 ウィードンプラシキラー、プラシキラー。
 スルファミン酸・硫酸アンモニウム複塩との複合剤
   イクリンエイト、ブラッシュバンがあった。
ヘキサクロロべンゼン(HCB)
 工業用に、除草剤PCP製造原料、ゴムの素練促進剤、衣料の防炎加工剤、ポリ塩化ビニールの可塑剤として使用されたが、1979年に化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律により「特定化学物質」に指定され、製造・販売・使用が禁止された。
 商品名 化学品の名称としてHCB、パークロロペンゼン。
PCB(カネクロ‐ル)
 熱媒・トランス油・ノーカーボン紙などに使用されたが、現在は使用されていない。
PCP
 塩化フェノール系の薬剤で、殺菌剤、除草剤、シロアリ駆除剤、木材防腐剤、工業用殺菌剤、工業用防カビ剤として使用。
 殺菌剤 アビトン、タロン、トモクロン。
 除草剤 PCP、畑作用PCP。
 複合剤 パムコン。木材処理剤・シロアリ駆除剤にキシラモン、クロルデンとの複合剤としてアリノン、サンプレザ−O、ニッサンアリサニタPなどがあった。
CNP(MO)
 除草剤。田植え前後に、湛水状態で水田に施用し、ノビエ、カヤツリグサなどの一年生雑草に適用される。人参。大根・白菜などの畑で種を播いた後土壌に撒かれている。
 商品名 エムオン、MOなど。
 複合剤 オードラムM、サターンM、ショウロンM、ハイカット、などの製品がある。
MCP(MCPA)
 除草剤。フェノキン系の薬剤。茎葉処理によって、広葉雑草を枯らす。水田では田植え後20〜40日後に施用される。トウモロコシ、麦、ジャガイモ畑や芝畑、造林地、非農耕地でも使われる。
 商品名 アリルMCP、ヤマクリ‐ンM、MCP、MCPソーダ塩。
 複合剤 グラスジンM、タカノック、トレモリン、パムコン、ポミカルDM、ヤマクリーンA、ヤマクリーンD、林地用ファインナップ。
NlP
 除草剤。田植え前後に水田に施用し、ノビエなどを枯らすのに使用。野菜畑や造林苗畑では、種を播いて土で覆った後土壌に撒いて一年生雑草の発生を抑えるのに使われた。
 商品名 ニップ。MCPとの複合剤 クサカット。
2.4−PA(2,4−D)
 除草剤・植物成長調整剤 家庭用除草剤の主流。
 アメリカレモンから0.01、0・21ppm規制はなく販売は自由
 商品名 ローンキープ、2,4−D、2,4‐Dアミン塩、2,4−Dソーダ塩。
 複合剤 カット、クイットリ‐、クサダウン、クサノン、クサノンS、クサアランカ−、グラスジンD、ゲルノパーKX、ジョソー、ジョソール、シントークサトリ、スタッカーD、スリーケー、ゼスト、テーゲル、バラン、ファインタックスA、ブラスコン、ブラスコンR、プリマトールAD、フルキラー,ミカロック、登録されていないものにラベージP。
クロメトキシニル(X−52)
 除草剤。水田のノエビやマツバイに適用され、田植え前後に、湛水状態で水田に散布されている。
 商品名 エックスゴーニ。
ヘキサクロロフェン
 殺菌剤、動物薬、消毒用殺菌剤、薬用石けん、化粧品、ベビーパウダーなどに添加される。
 厚生省72.3規制 浴用剤やてんか粉(ベビーパウター)に原則認めていない。やむおえず混入する場合には0.1%以下とする。

 現在では、薬事法で一般販売用医薬品や医薬部外品には使用されていない。しかし、化粧品類には、含有表示義務はあるが使用は禁止されていないし、病院や医院などの医療機関では、消毒殺菌剤として需要がある。
 ヘキサクロロフェンはG−11という名称で、薬用ミューズ石鹸などに添加されたことがある。医療用薬剤としてファイゾへックスがある。

トリクロサン(イルガサンDP−300)
 ジフェニルエーテル系の薬剤。工業用殺菌剤、薬用石鹸(花王キンダーソープ、花王ハーネス、クリンガード薬用石鹸)、化粧品への添加、衣料品(ノンスタック、サニタイズ)やマスクへの抗菌処理の他、いろいろな工業製品に添加されている。
 商品名 イルガサンDP−300。
エストロゲン類似物質ならびに製品名
  BHC       酸化防止剤
  DDT       殺虫剤
    登録1948年9月27日失効1971年5月1日
  DDE       DDTが分解してできる
    なお、DDTの代謝物にはDDDもある。
  DES       合成エストロゲン
  PCB
  エンドスルファン  殺虫剤
  クロルデコン    殺虫剤
    日本では農薬登録されていない。
  ケルセン      殺虫剤
    登録1948年9月27日殺虫剤。有機塩素系の薬剤
    果樹、茶、野菜、花弁のハダニ類に適用。
    商品名 ケルセン。複合剤 ダブル。
  ディルドリン    殺虫剤
    登録1954年6月3日 失効1973年8月7日
    殺虫剤・家庭用殺虫剤・しろあり駆除剤。
  トキサフェン    殺虫剤
  フェニルフェノ−ル 果実・野菜の防腐剤
  ヘプタクロル    殺虫剤
  メトキシクロル   殺虫剤

ノニルフェノ−ル
 プラスチック産業で酸化防止剤として使用されている。
 洗剤や避妊用の殺精子剤にも使われている。
 1リットルあたりわずか50マイクログラムの濃度のノニルフェノールを加えた水の中に、正常な魚を入れると川に魚を放置した時と同じ現象が起こり、雄の魚が大量の卵黄たんばく質を生成しました。
ビスフェノールA
 缶詰の内側にコーティングされているプラスチックに含まれていて、缶詰の中身より容易に溶けだしている。
 子供の歯を虫歯から守るために使われるシーラントや虫歯の詰め物に使われる白い樹脂にもビスフェノールAがあり、これらの樹脂からビスフェノールAが溶けだしている。
フタル酸エステル
 多くの食品の包装材に使われ、脂肪分の多い食品に溶けだしている。

 なお、エストロゲンの追跡に関しては、まだまだこれだけでは不充分です。がん細胞の増殖ができる方で、この分野に関心のある方は、ぜひ、協力して調査を進めませんか。試験材料を手に入れることは、わたしたち素人でも可能です。

工夫したい生活上の注意
 タフツ大学での検査 5ヶ国・20銘柄の缶詰のおよそ70%の中身に、エストロゲン類似物質であるビスフェノールAが解けだしていた。グリンピースやインゲンの缶詰でよく検出され、ほかの野菜の缶詰でも検出されたそうです。そして、ほとんどの缶詰の中身が、乳がん細胞を増殖させました。これは、缶詰の中身に溶けだした物質がエストロゲンと同じ働きをしている証です。
 日本のメーカーが他の国のメーカーと違うことをやっているとも思えませんが、日本では果してどうなか確かめる必要はあるでしょう。どんな影響もないことが確認されて、始めて安全だといえるので、それまでは安全だと思わない方がよいでしょう。
 また、缶の清涼飲料水ではどうなっているのでしょうか。ぜひ調査する必要があります。がんの組織培養に携わっている人で、関心のある方は、この点について、ぜひ検査をしてみてください。そして、その結果を公表して、教えていただければ幸いです。
 ブルーネル大学のJ・サンプター氏は語っています。
「例えば牛乳を買う場合を考えてみましょう。プラスチック容器のものはフタル酸エステルが溶けだしているかもしれないからと、ガラスビン入りの牛乳を選んだとします。でも牛乳ビンは洗剤で洗浄されています。その洗剤にエストロゲン類似物質が含まれているかもしれません。
 同様にビスフェノールAが缶詰の野菜に溶けだしている可能性を心配して、生野菜を買うことにしたとします。でも生野菜にもエストロゲン類似物質の殺虫剤や除草剤が使われているかもしれないのです。このようにエストロゲン類似物質はわたしたちの身近なところで、幅広く使用されています。ですから現時点で自衛策のアドバイスをするのは非常に難しい。」と。
 イギリス農業省のフタル酸エステルの影響調査によって、フタル酸エステルは多くの食品の包装材に使われていて、脂肪分の多い食品に溶けだしていることが判りました。ポテトチップスやパイやチョコレートなど、ほとんどの乳製品に溶けだしているのです。その調査ではいくつかの乳製品に非常に高い数値が出ています。ねずみの精巣に影響を及ぼした数字を見ると、危機感を覚える数値だそうです。
 世界自然保護基金 G・ライアン氏は指摘しています。
 朝食のトーストと夕食のべークドポテトにバターを使い、パックに入れられたサンドイッチを食べ、ラップに包まれたバイを食べるという食生活を続けていると、かなりの量のフタル酸エステルを摂取してしまうそうです。それはねずみの精巣を縮小させたのと同じレべルの量だそうです。
 日本の洋菓子メーカーの使用しているケーキを取り巻くプラスチックはどうでしょう。塩化ビニールが使われていませんか。また、このプラスチックからフタル酸エステルは溶けだしていないのでしょうか。わたしは、これまで、何も考えずに、プラスチックに付着した生クリームなどをなめていましたが、これからは、安全が確認できるまで、プラスチックで周りを包装したケーキを買うのも、食べるのも止めようと考えています。
 また、塩化ビニールを燃やさないまでも、ビニール袋入りの冷凍食品を、そのまま電子レンジに入れて温める人は多いと思います。これも注意を要することだと思います。
 婦人民主クラブの新聞には、ラップを燃やしてもダイオキシンが出るという記事が掲載されていたそうですが、酸化防止剤のフタル酸エステルが、脂肪分の多い食品に溶けやすい性質を考えると、油や熱を加えた時にも溶けだすことは充分考えられます。
 そうであれば、ビニールやラップをレンジで加熱した時、しみだす酸化防止剤のエストロゲン(フタル酸エステル)が食品に付着して、わたしたちは食品とともにエストロゲンを食べてしまうことになります。
 またレンジの加熱で、ビニールやラップの成分の一部がダイオキシンなどに変化しないとも限らないと考えるのは、わたしの考えすぎでしょうか。食品をレンジで加熱する時は、ガラスや陶磁器の器に入れ換えて、ふたにレンジ用の合成樹脂のふたを使うのさえ、確実な安全性が確認されるまで避けた方がよいと思います。
 海に囲まれて暮らす私たち日本人の多くが、とりわけ漁師の多くが、海を好意的に迎え入れ、「海が好きだ、海を愛している」と強い感情を持ったり、「最近は魚が減っている」と嘆いたりしています。でも、そういう人の中に、煙草の吸殻を海に投げ捨てる情景を目の当たりにすると、わたしは密かに心の中でその人に対する幻滅と危惧を感じていました。
 ところで、わたしは煙草をたしなまないので知りませんが、煙草のフィルターに使われている材質が塩化ビニールでなければよいのですがどうなのでしょう。もし、塩化ビニールであれば、フィルターを通して吸う煙の中にダイオキシンやエストロゲンが溶けだしていないとも限りません。それを、当人が吸うだけでしたら、本人の健康問題以外に問題は起きないでしょう。しかし、これを海に捨てて、もし、その合成樹脂からエストロゲンが僅かでも溶けだしてしまうとしたらどうでしょう。
 実際にはわたしの危惧は空振りで、環境汚染をもたらす化学物質がしみ出ることは煙草にはないのかもしれません。わたしも、そうであることを願ってはいますが、確かめる必要はあります。例え、煙草から環境汚染をもたらす化学物質がしみ出ていないくても、現実には合成洗剤を使うことで、日々、環境汚染をもたらす化学物質を、自分の住まいから海に向けて平気で垂れ流していることになっているのではないでしょうか。日本では圧倒的に合成洗剤を使う人が多いのですから、知らずにエストロゲンになるノニルフェノールを原料にした洗剤を使っていないとも限らないのです。
 海が好きで、魚が好きで、近海の魚など海の恵みが近年減っていることを嘆いているあなたが、もしこのノニルフェノールを原料にした合成洗剤を使っているとしたらどうでしょう。あなたは、自分の首を自分でしめていることになりませんか。川の魚の減少をなげく人に関してもまったく同じことが言えます。
 例え排水の下水処理をしても、これらの化学物質はほとんど分解されず、時には、排水に含まれるたんばく質(アミノ酸)と結合して、分解されにくい毒性の強い物質に変化して、川から海へと流れ込んでいるのです。
 また、貝殻などの付着防止を理由に、網に染み込ませる薬品や漁船に塗る塗料に混ざっている薬品に、ダイオキシンを含んでいたりエストロゲンの作用をもつものが使われている可能性がありますがどうなのでしょう。ぜひ漁師の方は確かめてください。
 もし、このような物質を今後も使いつづけるようでしたら、あなたたちは、海の魚が減ったことをなげく資格も海の恵みをえる資格も失ってしまうと思うのですが、どうなのでしょう。
 海の魚が減っているという魚の行く末に関心がなくても、夏になると、海水浴に行く若者は多いことでしょう。彼らは、一年をかけて自分の部屋から合成洗剤を垂れ流して、洗剤から出たエストロゲンでよどむ海に泳ぎに行き、自分から喜んでエストロゲンを浴び、時には海水とともに自分の口からこのエストロゲンを飲み込んでいるのです。
 あなたの体に入り込んだこのエストロゲン、あなたの脂肪組織に蓄積されて、いつの日か暴走する時を待っているのです。
 それ以上にわたしたちは、エストロゲンを毎日飲んでいると言えないでしょうか。1983年〜1984年に採取された北海道・東京・愛知・新潟・大阪・福岡の水道水の検査データでは、すべての水道水から農薬CNPが検出されている状態ですから、日本全国どこの都市や山奥の部落に行っても、毎日飲む水道水だけでなく、天然水の中にも農薬入りでない水にお目に掛かることはまずないと考えていいでしょう。何しろこの検査は農薬CNPのみの検査で、他の農薬やダイオキシン・エストロゲンの検査はしていないので、検査をすれば何が出てくるか判りません。
 こんな状況ですから、これで乳がんなど、生殖器のがんにかからずにすむとしたら、よほどあなたは運がいいのだと思って間違いないでしょう。でもこの先、いい運だけで、この難局をどれだけやり過ごせるものでしょう。幸運を願ってはいますが、こんな状況になってしまうと、幸運だけにまかせていてよいものか考えてみる価値はあるでしょう。

製品の調査と化学物質の検査
 これでも、まだまだ大丈夫、と言っていられるでしょうか? それとも、もう何をやっても手遅れだとでも思うのでしょうか?
 人間はどうせ死ぬんだと、始めから自分のいのちを捨ててかかって、「知らない」を貫いて生きてしまうのでしょうか?
 これからも「無難に生きたい」と願う人には、もう「知らない」ではすまない生活環境の中に、わたしたちは知らずに知らされずに踏み込んでいた、というのがわたしの認識です。
 利益をあげることだけを考え、環境に影響を及ぼす化学物質の情報を公開しない企業や役所も問題ですが、最後にそういった製品を消費して周りの生活環境にゴミとして捨てたり、汚水として垂れ流してしまうのは、わたしたち消費者自身です。
 日本では、塩化ビニールは、水道管=塩ビ管として、広く・深く家庭で愛用しているものを始め、軟硬質包装資材としても広く見かけられます。不用意に焼却炉で燃やすことのないよう、ゴミの分別収集をしている地方の方は、さらに徹底して、燃やすゴミの中にビニール類をまぜることは止めたほうが良さそうです。また、ゴミの分別収集をしていない地域では、分別を始めるよう働きかけ、土地のある人は、生ゴミはどんどん堆肥にしてほしいものです。
 わたしのところでは、台所洗剤にも、合成でない粉石けんを使っています。また、伊豆では、トイレの匂い消しにEM菌を使って、10日ほどしてほとんど液体になったところで、わたしは肥やしにしています。
 ドイツでは市販の消しゴムが塩化ビニールを含んでいたので、塩化ビニールを含まない消しゴムに変えるという対処をしていますが日本ではどうなのでしょう。
 具体的には、いまどこのメーカーのどの製品のどの部分に塩化ビニールが使われているのか、メーカーに問い合わせた時、メーカーはどう対応し、使われている塩化ビニールを別の材質に変更を要請したところ、どう対応したのかなど、今後、わたしたちが手分けをして、調査し、情報を集中して、公開していく作業が必要です。
 また今後、どんな物質を許容し、どの物質は使わないようにするのか、わたしたちが検討する上で、化学物質によるがん細胞の増殖試験ができる方は、または、できる方を知っている方はぜひ協力してください。連絡をお待ちしています。
 結果的に、ダイオキシンや残留農薬の検査やエストロゲンになる化学物質の検査に関して、既存の検査機関が頼りにならない時は、行政に任せず頼らない独自の検査機関を持つことも視野に入れたいものです。

 最後に、この文章が、今後の生活の仕方について、考えるキッカケになってくれればと願っています。


 脳死の臓器移植が日本でも論争を巻き起こしていて、脳死の臓器移植が実行に移されない間に、これまで脳死だとして、植物状態になった人が、最近、低体温療法で、脳の活性酸素の働きを抑えて、その間に脳細胞の回復をはかるという治療法が開発されました。その結果、アメリカでは2日しか様子を見られず、脳死として臓器移植の対象になってしまう症状の人でも、日大板橋病院では、回復し、退院することができるようになったそうです。
 この療法は北里大学病院をはじめ、全国数カ所の病院でも採用されています。もし、火急の時は、日大板橋病院に間い合わせてください。詳しく調べていずれ文章にしたいとは思いますが、他に挑戦して詳しいレポートを書いてくれる人があれば、お願いします。