TOP
トピックス

遠藤 滋
結・えんとこ
えんとこ
ケア生活くらぶ

連載情報
 ┣ 遠藤滋一言集
 ┣ にわか歌詠み
 ┣ 調査結果報告
 ┣ えんとこ通信
 ┣ いのちの森通信
 ┗ 梅ヶ丘周辺マップ

障害者自立支援法
施行問題
支援費制度問題
映画『えんとこ』


掲 示 板
アンケート
スタッフ募集!!
リンク集
更新履歴

ブラーヴォ、朝比奈さん

 数ヶ月前、NHKのBS−2で、朝比奈隆指揮大阪フィルハーモニー交響楽団によるベートーヴェンの交響曲全曲演奏を聴きました。

 朝比奈さんといえば、ブルックナーの交響曲の演奏にかけては、世界で三本の指に入るといわれる、巨匠のひとりです。レパートリーは、他にマーラーとか、ブラームスなど、主として後期ロマン派が中心で、それ以外の曲については、ぼくはあまり知りません。
 しかも今年92歳。現役の指揮者としては、世界でも群を抜く最高齢者です。そのかれが、去年、つまり91歳の時にまたまたベートーヴェンの交響曲の全曲演奏に挑んだのです。放送されていたのは、その時の演奏でした。

 じつに若々しかった。それも指揮する姿が矍鑠(かくしゃく)としていたというだけでなく、かれの指揮棒から紡ぎ出される音楽そのものが、本当にみずみずしかったのです。
 とくに交響曲第二番。これは9曲あるベートーヴェンの交響曲の中では、第一番とならんで初期のもので、まだハイドンやモーツァルトの影響下にある習作的な作品とされています。演奏される機会も、それほど多くはありません。それ以後の第三番“エロイカ”をはじめ、それに続く作品があまりに偉大であるがゆえに…。
 でも、かねてからぼくは、この作品が好きでした。まず第一楽章。比較的長い序奏部のあと、あまり目立たない第1主題が提示される。にもかかわらず、第2主題はとても勇ましく、元気にあふれているのです。それに、第二楽章である緩徐楽章のこの上ない美しさ。第一番でもそうなのですが、第三楽章は、メヌエットではなく、事実上スケルツォになっています。それにあの、フィナーレの第四楽章!
 朝比奈さんは、それらを、本当に若々しい感性で演奏されていました。

 この時期のベートーヴェンといえば、ちょうど耳に障害を感じはじめ、例の「ハイリゲンシュタットの遺書」といわれる手紙を書き始める直前か、それに重なる頃です。年齢でいえば、三十代のはじめ。音楽史の上では、かれの活躍はそこからはじまるのですが、本人にとってみれば、そこで終わっていたかもしれない。そう考えると、これが自分の総決算、という気持ちがあったかもしれない、とも思えてきます。
 91歳にしてこの年頃のひとの感性を、実にみずみずしく表現できる。そのことに、ぼくは驚嘆しました。意外なほど古典的で、それがまた新鮮でもあった…。ブルックナーなど、後期ロマン派の交響曲の演奏を極めたひとにして、かえって初めてできた快挙なのでしょうか?

 それにしても、巨匠といわれたヨーロッパの指揮者の多くが、年をとるにしたがってテンポを遅くとるようになる、ということに気づいているひとは多いでしょう。それが時に雄大な演奏に聴こえたりもするのですが、朝比奈さんはそうではなかった。
 もちろん、他の曲の演奏も、すばらしかった。第九を指揮するときには、その表情までが毅然として、とてもそんなに高齢とは思えませんでした。目をカッと見開いたりして…。

 これからも健康の許すかぎり、ご活躍下さい。マエストロ朝比奈に喝采を! 


 昨年の暮れもおしつまった12月29日、かれが亡くなったという知らせを聞いて、驚いています。原因は、老衰。とても自然なことですが、残念です。そして、かれ自身にとっては、きわめて幸福な一生だったのではないでしょうか?
 どうもお疲れさま。日本だけでなく、国際的なブルックナー・ファンを楽しませてくださって、ありがとう! ぼく自身は、ナマであなたの演奏を聴いたことがありません。ぜひとも聴きたかった…。
 大阪のひとが、うらやましくさえ思えます。
2002年01月03日