「支援費制度についての公開質問状」への予備知識


*日本の社会福祉制度「改革」の基本的な流れ
 これまで、日本の社会福祉は、基本的に行政による「措置制度」として行われてきた。措置制度とは、なんらかの原因で困窮した家庭に対し、それを救うために、行政がその措置を決定するというものである。
 従って、そこには当然本人やその家族に選択の余地はない。しかし、日本国憲法第25条に定める、「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」(生存権の保障)という理念に基づき、まずは社会福祉事業法が制定され、その後、生活保護法などの、福祉六法といわれる基本的な制度が整備された。
 障害者施策に限っていえば、身体障害者福祉法、精神薄弱者福祉法等による諸施策がそれである。さらに後になって、重度心身障害者福祉法なども、親たちの粘り強い運動によってつくられることになる。このことの意義は、決して無視することはできない。
 だが、重度の障害をもつ者にとって、措置とはすなわちどこかの施設への収容を意味した。これは経済の発展に伴う、おもに都市部での核家族化や、旧来の地域社会の解体ともおおいに関係している。こうした時代の進展とともに、これらの措置制度は、成人した障害者本人の意思を無視し、自由な個人としての権利を束縛する側面をもつものとして意識され始める。。
 とくに1970年代以降は、障害者自身による社会生活の自立を目指す運動が盛んになり、東京や大阪などの大都市圏を中心に、独自の条例を定める自治体が生まれるようになった。全身性障害者介護人派遣制度等がそれである。
 事実上、新しい収容施設が造れなくなっている現状とも相俟って、これは国にも反映し、たとえば生活保護制度の中に、厚生大臣認定の「介護料特別基準」なども設けられ、これが、いわゆる重度障害者の自立生活の全国的な拠り所となった。当初は社会福祉協議会などに委託されていた家庭奉仕員派遣制度も、これを公務として位置づける自治体が増え、おおよそこうした動きに対応して変化し、大幅に多様化し、また拡充されてきた。
 ところが近年、再びこれを民間事業者に委託する動きが強まっている。

*従来の制度と「障害者支援費支給制度」の違い
 こうした流れの中で、本人達の意識を反映させるかのように打ち出されてきたのが、今回の「障害者支援費支給制度」(支援費制度)である。そしてこれは2000年に、たいした議論もなくすんなりと国会を通った「社会福祉事業法」の一部改正によって方向付けられた、本人の自由な選択による、民間のサービス業者との「契約」を原理とするという原則に基づいたものだ。「措置から契約へ」と言われるゆえんである。
 しかし、それは政府がすべての責任を障害者本人の自己責任、そしてその当人が住む自治体の補助責任に転嫁し、憲法の理念である国民の生存権の保障から、事実上の撤退を図る目的で行おうとしているのは明らかである。すでに同じ2000年から実施されている、高齢者およびいくつかの指定難病患者を対象とした、「介護保険制度」を前提とし、その中に組み入れようとしているのである。
 ただ、生まれながらの、とくに重度の障害者からは保険料の徴収は難しいところがあるので、過渡的にこれを補助しようというわけなのである。制度の名称も、そこから来ている。
 もともと市場経済の競争原理から弾かれた人々を、その同じ競争原理に組み込もうとする。これがこの制度の根本的な矛盾といわざるを得ない。
(遠藤)