当事者団体と厚労省との交渉

●法案反対の主張
@応益負担反対
(1)利用料の激増により、福祉制度を使うことが困難となる。
(2)福祉を国が補償すべきものという考え方を否定し、便益を買うものという考え方に変えてしまう。憲法25条の否定へとつながる。

A介護保険と同様の「障害程度区分」の認定は、障害者の介助制度を、介護保 険と同様に低水準に落としこめていくものであること。

B「自立支援医療」は、更生医療、育成医療、精神障害者通院公費制度の対象 者の多くを切り捨てるものであること。利用料も大幅に増額される。

C「地域生活支援事業」は、国の補助金削減の手段であり、対象となった制度 は後退を余儀なくされ、市町村間での格差はますますついていくこと。


●法律成立後に新たな撤廃署名を開始
 こうしたわたしたちが反対した問題点はそのままにして「障害者自立支援法」が成立した以上、わたしたちはこの撤廃を求めて運動していくことになりました。
 2月1日からは、「障害者自立支援法撤廃署名運動実行委員会」の呼びかける署名運動に取り組んでいます。(署名用紙を参照してください)現在3700人を超える署名が集まっています。


●厚生労働省交渉
 2月1日、3月22日とわたしたちは、厚労省交渉を行いました。
 わたしたちは、あくまでこの法律に反対である旨を述べると共に、さまざまな問題点の改善を要求しています。法運用の内容が明らかになればなるほど、内容のひどさを痛感しています。以下、わたしたちの主な質問とそれに対する厚労省側の姿勢を記します。それぞれの質問項目で大もめにもめており、回答を得る時間がなくなったものもありますが、今後も交渉はつづきますので、項目を挙げておきます。

@応益負担について
 「(1)介護給付、補装具、自立支援医療、通所施設の食費のそれぞれで別個に自己負担が発生し、障害者の生活が成り立たなくなることさえ予想されます。市町村の実施する地域生活支援事業の自己負担の設定によっては障害基礎年金の支給額さえ超える負担が発生する恐れもあります。厚労省として対策をとるつもりはありますか?
 2月1日の交渉の場において厚労省の担当者は「法の改正が必要なのですぐにはできない」と回答されましたが、所得による上限は政令で決められているのであり、法の改定を行わなくとも対策は取れるはずです。上述のように、それぞれの項目で利用料を徴収することは、事実上徴収の上限をはずすものであり、障害者の生活を省みない悪政です。直ちにあらためてください。」
 → 厚労省側は、重要な課題としながらも、3年後の見直し以外に何も具体的な検討。スケジュールを示していません。

 「(2)介護給付、補装具、自立支援医療のそれぞれの負担上減額の算定根拠を示してください。」
 → 介護保険と同じ水準にした、とだけ応えているだけです。

補足:高すぎる「障害福祉サービス」の利用者負担について

・生活保護世帯の方なら、0円
・市町村民税非課税世帯で障害基礎年金2級(月6.6万円)のみ受給の方な ら、15,000円
・市町村民税非課税世帯の方なら、24,600円
・市町村民税課税世帯の方なら、37,200円(与党の働きかけにより、 3000円減額された)

 利用料は毎月取られる金額。
 これまでの支援費制度では、応能負担で、ホームヘルプに関しては住民税非課税世帯は利用料はなしであり、住民税の最低税率である市町村民税均等割りの場合は1100円だった。以下にひどい値上げか。

 試算として、厚生労働省から出されている数字を使って、障害基礎年金1級(1ヶ月8万3千円)の人が2万4600円を取られた場合の生活費を考えてみる。
 8万3千円から2万4600円をひくと5万8400円。
 通所施設の食材料費が230円とされているので、230円かける3回かける30日で2万700円。
 入所施設の1ヶ月の光熱水費が1万円とされている。
   この食事関係費用だけひいても残りは、2万7700円。しかし、一人暮ら しの場合、食費は230円ではすまないし、光熱水費もより多くかかる場合が多 いだろう。

 入所施設では、2万5千円を「その他生活費」として、「被服・履物、家具・家事用品、保健医療、交通・通信、教育、教育娯楽費、その他支出である」としている。当然これらは在宅でも必要な費用であるが、こうした費用を支出すると、家賃を支払うことなどできない。

 ちなみに、在宅での介助として「日常生活支援」(脳性麻痺など「全身性障害者」が対象)を1日5時間使えば、利用料1割は2万4600円を超える。
 ところでこの利用料の上限額は、世帯単位に課せられている。逆に、この世帯に介助を利用する障害者が何人いても、利用料の限度額は変わらないはずである。
 しかし、市町村によっては、いったんその世帯の複数人分の金額を利用者に支払わせ、3ヵ月後に1か月分ずつを利用者に払い戻すというところもある。従って、3ヶ月間は、上限額の何倍かを払いつづけなければならない例も出ている。
※町田市などがその例である。

 「(3)私たちは資産調査そのものに反対であり、廃止を強く求めていますが、その上で質問します。
 資産調査について、厚労省は「他制度との整合性から規定を設けている」と回答されていますが、他制度では現実にどのような運用が行われているのかについては答えられないという醜態を示しました。そこであらためて質問します。生活保護、介護保険、国民健康保険などの他制度においての資産調査はどのように行われていますか?実際の運用の実態を明らかにしてください。」
 → これは、「社会福祉法人減免」、「個別減免」、「生活保護移行防止減免」に際して預金通帳の写しを提出させるといった運用が行われていることについての質問です。東京都などの介護保険の担当窓口に聴くと、「社会福祉法人減免」などの際にはそのような通帳の写しなどは出させていないとの回答があったため、わたしたちは質問しました。
 厚労省側は、省令などの条文を読み上げ、同じように試算調査を行うと回答するだけでした。実際の運用が異なっている点について応えようとはしません。
 「障害者自立支援法」を契機にあらゆる方面で試算調査を強化しようとしている動きがありますが、こうした政策が減免制度の利用を躊躇させることになるのです。

 「 (4)厚労省は、自己負担によって生活保護へ移行する恐れのある場合生活保護にならない程度までさらに減免を行うとしていますが、その申請手続きがあまりにも煩雑なため事実上申請をさせないための手続きの仕組みであるという疑念を持たざるを得ません。先日の交渉でも、「障害福祉の窓口だけで手続きが行えるよう通達を出してほしい」という要望を出しましたが、厚労省として市区町村に対する通達あるいは指導をしていただけますか?」
 → この減免を受けるためには次のような手続きが必要となります。
 障害福祉関係窓口で障害福祉サービスと利用者負担額が決定される。
 それを支払うと、生活保護基準以下になる場合、改めて福祉事務所に生活保護の申請を行う。
 福祉事務所は、応益負担の減免や食費の給付費を増額すれば、生活保護基準にならないと判断して、そうした理由を記した生活保護の「却下通知書」を出す。
 利用者側は改めてその「却下通知書」を持って「定率負担減免」または
「補足給付増額」を、「障害福祉」関係窓口に申請する。
 以上の手続きのために窓口にいく回数は最低でも4回にはなります。それぞれの窓口が地理的にも離れている場合があり、この減免措置を受けにくくしているとしかわたしたちには考えられません。

 しかし、厚労省がわの応えは、「生活保護の担当と障害福祉の担当では、調べる内容が違う」と言うだけで、何の改善も図ろうとしません。

 「(5)精神障害者の自立支援医療における「負担上限管理表」について、現行では患者本人が管理するよう規定されているが、精神障害者の中には書類の管理などが不得意な人も少なからず存在します。その結果、負担上限を超えて医療費を支払わされてしまう人たちが大量に出てくると思われますが、そのような場合患者本人の負担にならないような措置を検討していただけますか?その場合どのような方法があるのか具体的に示してください。
また「社会で暮らすなら健常者と同じにしろ」という2月1日の佐野係長の発言は、精神障害者の特性についてあまりに無理解といわねばなりません。理解した上での発言であれば、差別です。上記発言を撤回し、謝罪してください。」
 → 介助や訓練についての利用料の上限額管理は、事業者、あるいは、市町村が行うことになっています。しかし、この「自立支援医療」だけは、患者本人が上限額管理表を持って管理しなければならないのです。
 何故このような違いを設けているのか全く厚労省は応えようとはしません。上限額を超えて支払ってしまうような場合の対策も検討しようとしていません。

A国庫負担基準と報酬単価の低さについて
 「(1)国庫負担基準について
 国庫負担基準の低さに、わたしたちは強い憤りを感じています。ほとんどが介護保険の利用限度額よりを大きく下回り、区分によっては支援費の国庫補助基準さえも下回ります。「介護保険の介助保障の水準では地域で生きていけない」という全国の障害者の声を厚生労働省はどう受け止めたのでしょうか?
 この国庫負担基準を算定した根拠を明らかにしてください。算定のために用いた資料があれば、それを提出してください。
 支援費制度では、新たに制度の利用を申請した人や国庫補助基準を下まわる市町村にはその国庫補助基準までしか国は出さないという仕組みでした。この3月1日に発表された国庫負担基準についても、上述のような新規利用者や自治体には、支援費の国庫補助基準と同様の取り扱いをするつもりですか?
 この法律において、「重度訪問介護」、「行動援護」、「重度障害者等包括支援」の対象者は、「常時介護を要する」と規定されています。にもかかわらず、この国庫負担基準では、最重度とされる「包括支援」の対象者も1日8時間以下の介助しか受けられません。これでは、法律で利用対象を狭めておいて、法律どおりの必要性をも保障しないというあまりにもひどい政策であると思いますが、見解を示してください。
 「障害程度区分」判定では、あらかじめ「非該当」となる人が出ることを前提としており、その対策も「地域生活支援事業」の必須事業でさえない「生活サポート事業」です。国庫負担の総額も、これまでの実績の9割をカバーするに過ぎません。国庫負担基準のことと合わせて考えると、尾辻大臣の「障害をお持ちの方で今サービスを受けておられる方、この方々が適切なサービスを受けておられるという、その水準を私どもが下げるということは決して考えておりませんし、また、そんなこともいたしません。」(05年10月26日 衆・厚生労働委員会)との発言は、法律を通すためのうそだったということでしょうか?」

補足:国庫負担基準額と介護保険利用限度額、支援費国庫補助金

・居宅介護
 区分1:2万2900円(介護保険の要支援利用限度額の約37%、支援費 国庫補助金「一般の障害者」の33%)
 区分2:2万9100円(介護保険の用介護1の約17.55%、「一般の障害 者」の約42%))
 区分3:4万3100円(要介護2の約22%、「一般の障害者」の約 62%)
 区分4:8万1100円(要介護3の約30%)
 区分5:12万9400円(要介護4の約42%)
区分六:18万6800円(要介護5の約52%)
 障害児:7万2800円

・重度訪問介護
 区分4:19万200円(要介護3の約71%、支援費国庫補助基準の「全身 性障害者」の約87.67%)
区分5:23万8500円(要介護4の約78%)
区分6:29万5900円(要介護5の82.58%)

・行動援護
 区分3:10万7800円(要介護2の約55%、支援費国庫補助のガイド ヘルプを伴う「特有のニーズを持つ者」とほぼ等しい)
 区分4:14万5800円(要介護3の約54.5%)
 区分5:19万4100円(要介護4の約63%)
 区分6:25万1500円(要介護5の約70%)
 障害児(18歳以下):13万7500円

・重度障害者等包括支援
 45,500単位(要介護6の約127%)
 → 厚労省の応えは、次のようなものでした。
 介護保険の利用限度額の中には、ホームヘルプだけでなく施設への通所なども含まれている。しかし、「障害者自立支援法」の国庫負担基準は、ホームヘルプだけの金額。
 これでは、障害者は、国庫負担分のホームヘルプ以外に、施設への通所なども使わなければ介護保険以下になってしまうことを意味します。介護保険よりも、生活の設計に関する選択の幅が狭められることになりかねません。
 さらに、実績の9割をカバーする負担も行い、多く利用しない人の文をまわすなどして、これまでの水準を下回らないように調整することを考えている、と言います。
 しかし、「障害程度区分」に応じた国庫負担の水準がそもそも低く、その中で他の人の文を使え、というのは無理のある話しであり、本来行ってはならないことであると考えます。そして、激変緩和文も9割と言うのであれば、やはり、介助時間の切り下げも起こってくるのではないでしょうか?本来は、その利用者の使った実績に応じた国庫負担を行う2002年以前のあり方に戻すべきなのです。

 「(2)資格による減算について
 3月1日に示された資料によると、「3級ヘルパー」や「見なしヘルパー」についての介助については、「身体介護」で30%、「家事援助」で10%の減算を行うとしています。「1級」や「2級」ヘルパーの介助と何か違いがあるのでしょうか?
 「基準該当事業所」についても15%の減算を行うとしています。指定事業者と何か介助について違いがあるのですか?
 「重度訪問介護」のヘルパー研修は簡略化しておきながら、「居宅介護」については2級ヘルパー以上でないと一般的な単価が支払われないようにするというのは矛盾であると思いますが、見解を示してください。
 資格制度で介助の質が向上することはあり得ず、逆に、新たな介助者の確保を困難にしています。そして、今回の方向は旧来からの介助者さえも失いかねない状況を作り出します。厚労省は、今後ヘルパー研修を500時間にするなどという情報も流れていますが、資格制度をますます強化するつもりなのかどうか明らかにしてください。」
 → 厚労省は、「身体介護」と「家事援助」はN短時間で行わなければならないので、専門性が高い。「基準該当事業所」は、指定事業者に比べて管理コストがかからない。などと言います。
 ここに利用者の実感や実態は全く考慮されていません。単なる勝手な線引きです。
 わたしたちは、介助の質は、けっして資格や講習で改善されるものではないと考えます。障害者など利用者とかかわり、その中で学んでいくものである、と考えます。
 まして、「見なしヘルパー」は、支援費制度以前から介助者となり、数年以上介助を続けてきた人たちです。こういう人たちの生活が不安定になったり、ヘルパーをやめざるを得なくなった場合の利用者にとっての打撃は計り知れません。
 「基準該当事業所」は普通規模の小さな事業所です。そこが15%もの減算をされたらそれこそ立ち行かなくなる恐れがあります。

 「(3)知的障害者と精神障害者の地域生活介助について
 知的障害者と精神障害者の場合、長時間の介助が想定されておらず、1日3時間までの身体介護か、1.5時間までの家事援助しか利用できません。「特に市町村が認めた場合」のみ、30分ごとの延長を認めるとなっており、しかもこれまで以上に安い単価(30分700円)になっています。これは差別ではないのですか?」
 → 厚労省は、長時間の介助も可能と応えていますが、1時間1400円ていどで引き受けられる事業所がどの程度あるのでしょうか。次の問いもそうですが、厚労省自身が民間事業所を通して介助者を派遣する仕組みを作ってきて、公務員ヘルパーなどの体制をなくしてきたのに、今度はその事業所による介助者派遣も危うくしています。

 「(4)長時間介助の必要な人への地域生活の保障について
 わたしたちは、支援費制度発足時に「日常生活支援」類型といった単価の低い介助を引き受ける事業者が極めて少ないのではないか、と指摘してきました。今度示された単価では、「重度訪問介護」でさらに10%程度引き下げられます。
「居宅介護」で長時間の介助を利用すればそれ以上に低い単価が適用されます。そうなればますます事業所が引き受けなくなるのはもちろん、事業所そのものが成り立たないところも出てくるのではないかと考えますが、厚労省としての見解を示してください。こうした単価設定のための実証的調査などもあったら提出してください。
 こうした単価設定によって介助保障がなりたたなくなる場合、単価を引き上げるか、国や自治体が責任を持って働いているヘルパーを雇用するなどして保障するしかないと考えますが、見解を示してください。」


 ここに上げた以外にも、多くの問題があります。
 病院や施設敷地内にグループホームを作ることを認めたり、定員30人のグ ループホームさえ認めるといったこと。より多くの利用者を世話人1人が対応し なければならない状況を作ること。
 福祉労働者をますます不安定雇用化すること。
 などあげれば切りがないほどです。

 政府は、基地を作ることや自衛隊をイラクに派兵することなど、人の命をおろそかにする方向に金を使っています。
 わたしたちは、社会保障や福祉という皆で生きていくためにこそ予算を使うべきであると考えます。
 政府関係者は、あたかも社会保障が財政赤字の原因であるかのように言いますでは、社会保障関係費の伸びよりも、財政赤字の伸びの方がはるかに大きいことをどう説明するのでしょうか?