満ちる怒り-6月集会に参加して

古賀 典夫

 6月3日「JD緊急フォーラム」が開催され、ニッショーホールに650人以上の人が参加しました。6月6日「知的障害者福祉協会」(施設関係者)主催の集会が、日比谷野外音楽堂を中心に開かれ、当初の三千人の予定を大きく上回る5500人の人々が結集しました(施設隔離に反対してきた私たちとは入所施設に対する考え方の違う団体ですが)。6月8日には、東京都内の障害者団体が主催する「東京フォーラム」が開催され、新宿文化センターに1800人が参加しました。
 「この法律は、障害者も障害児も命の危機にさらしている」(6月3日集会での発言)
 「障害者自立支援法は、障害者を自滅に追い込む悪法であります。」
 「皆さん、障害者自立支援法の粉砕に向かって、がんばりましょう。」
 「われわれ家族会は全国何十万いるんですよ。体をはって行動すれば、必ず粉砕できます。」(6月6日集会での「全国知的障害者施設家族連合会」の方々の発言)
 とくに、これらの集会を通じて昨年の過程では「支援法」に対して、反対運動をしてこなかった層から怒りが噴出していることがあらためてわかりました。むしろそうした層から激しい怒りのエネルギーが起こっているのです。
 さらに7月に入って、大障連呼びかけの大阪府庁包囲行動には、2100人が結集しました。7日には「障害者の地域生活確立の実現を求める全国大行動実行委員会」の厚生労働省交渉と集会が行われ、全国各地から300人が集まり、わたしも参加しました。
 「支援法」の実態はこれからますます明らかになります。そのなかで、怒りはさらに強まっていくでしょう。これらの集会を通じて「支援法」粉砕・撤廃の展望を強く感じました。以下、わたしが参加した集会のなかで語られた「支援法」施行の実態や問題点について報告したいと思います。

●応益負担の重圧
 これらの集会でも紹介されていましたが、いくつかの団体が加盟施設の利用者の調査を行っています。きょうされんの調査では、施設から退所した人と退所を検討している人は2.58%。「全国社会就労センター協議会」の調査で、3月末までに施設を辞めた人が3.54%。「全国コロニー」の調査では、利用者1200人の内74人(6.1%)が施設を辞めていると言います。「全国コロニー」の沖縄の施設からは19人の人が辞め、家にこもってしまったそうです。愛知県でも16人の人が辞め、東京でも19人が辞めた、との報告がありました。これは、施設全体の調査ではないので、もっと多くの人が辞めていることでしょうし、今後そうした人はさらに増える可能性があります。
 6月8日にパネラーとして話された府中市の通所施設の方によれば、利用料と新たに取られることになった給食費をあわせて、非課税世帯は月に1万6千円、課税世帯は2万2千円を支払うことになったと言います。ここでは食費の実費すべてを利用者に払わせることには無理があるとして、施設側から持ち出しをしているそうです。したがって、これ以上に支払っているケースがかなりあるものと思われます。
 わたしたちの仲間でも、ホームヘルプの利用を減らしている人がいます。ガイドヘルプの利用を控え、病院にいく以外には使わなくなったという話しさえあります。DPIの調査では、1割の人がこれまで受けてきた福祉制度の利用を削減したとのことです。
 そうした中で、心中が各地で相次いで起こっています。
 東京のように10%の負担を3%にしている中でも、町田市のようにいったん10%を払わせ、後に7%返すという自治体もあります。また、世帯の中に何人か「支援法」の制度利用者がいる場合や、介護保険制度と「支援法」の制度の両方を使っている場合は、いったんはすべての1割を足した額を払い、3ヶ月後あたりに、世帯の支払うべき上限額を超えた分が払い戻されることになっています。このため始めにかなり多くの金額を支払わなければならなくなり、大きな負担となっています。

●「障害程度区分」認定への危機感
 「支援法」での「障害程度区分」の認定は、まず介護保険と共通の79項目をコンピュータ判定します(プロセス1)。それをさらに「支援法」独自の項目で補正する形を取ります。こうした形を取る結果、プロセス1で軽い判定や非該当となると、その後の補正を行っても、重い判定にはなりません。
 介護保険でも「認知症」とされる人が軽い判定になることが問題になってきましたが、これと同じように「支援法」でも「知的障害者」や「精神障害者」は軽い判定にしかならないという問題があります。
 「精神障害者」の場合、どんなに重くても「区分2」までにしかならないといわれています。「知的障害者」の場合、大部分が区分3以下になってしまい、グループホーム利用者の中では80%が区分2以下になってしまうと言われています。これは、いくつかの団体がシュミレーションなどを行って独自に調べた結果です。
 「区分」が軽いほど受けることのできる福祉が少なくなるのが、この「支援法」です。
 これらの集会で問題になっていたのは、とくに次の点です。

 グループホームの職員の夜勤体制について国は、その利用者のなかに「区分4」以上の人がいる場合にしか、夜勤のための報酬を出さないとしていることです。グループホームもケアホームも「知的障害者」や「精神障害者」を中心としているのであり、上述したような「区分」の認定方法では、夜勤体制を取れるところはなくなってしまいかねないわけです。
 施設入所は「区分4」(50歳以上の人は区分3)とされました。その結果、地域の体制があろうとなかろうと、経過期間5年を過ぎれば、この区分以下の人は施設を出て行かなければならないことになります。「自閉症の人たちは支援費制度によっては、障害の大変さから施設利用だけでなく、在宅関係のサービスも利用できない場合が多かったわけですけれども、自立支援法においては、障害程度区分により、制度そのものから排除されてしまう危険性があります。」(6月6日の全国自閉症者施設協議会会長発言)
 にもかかわらず、あとで述べるように、隔離を強める力が働く仕組みとなっており、地域で生きる体制のための準備がますます困難になるのです。
 他方、報道では病院のおこなったシュミレーションで、入院している筋ジストロフィーの方のなかに「区分」認定によって「療養介護」の対象にならないため、出て行かなければならない恐れがあることも指摘されています。「より良い程度区分の認定方法を」ということも語られますが、わたしは行政側が責任をもって利用者と話しをし、何がその人にとって必要なのかを判断していくこれまでの方法に、まずは戻すべきだと考えます。

●報酬単価の日額払いが施設やグループホームを直撃
 措置制度から支援費制度までは、施設やグループホームの報酬単価は月単位で決められていました。しかし「支援法」では、1日単位の報酬単価となります。
 グループホームで言えば、365日開所していることが前提とされています。それでも報酬単価は、昨年度に比べて1%下げられているのです。
 利用者が家族の所に帰ったり、外泊や入院をすれば、その利用者がいなかった日数は報酬はなしとなります。これまで入院した利用者の用を、グループホームの世話人が行ってきましたが、これからはそのことに対しては無報酬となるのです。利用者が帰宅する時を、世話人の休日としてきた所もありますが、そうしたこともできないのです。
 グループホームは、借家を使って運営される場合が多く、東京の場合は85%がそうだと言います。そうなると、グループホームの利用者が長期の入院などした場合、経営を直撃します。場合によっては、入院からそのホームに帰ってこれないことも起こるのではないでしょうか。

 入所施設も365日開所していることが前提とされ、日額払い方式とされました。グループホームとはいくらか違い、1ヶ月に6日は、入院など外泊について報酬が支払われますが、それ以上になると、無報酬となります。
 通所系については、1ヶ月22日、1年264日開所していることが前提とされています。また、利用者の出席率は94.5%とされています。これを前提に日額払いの報酬単価が決められていますが、これはあまりにも無茶な計算です。
 週休2日として、365日の7分の5は、260.7日です。ここに、正月や夏休み、祝日が加わると、年間開所日数はさらに少なくなるのは当然です。前述した府中市の通所施設は、5日間取っていた夏休みを3日とし、旅行も利用者を半分ずつに分けていくことにして、年間240日の開所計画を立てたと言います。東京都社会福祉協議会の調査では、利用者の出席率は80%を下回っているとのことです。

 通所施設については、公立も民間も昨年度と比べて実質2割を超える減収になると言います。入所施設では、「全国自閉症者施設協議会」の調査では、昨年度と比べて二千万円前後の減収。「全国社会就労センター協議会」の調査では、入所施設で5%、通所施設で12.8%の減収との調査結果が出されました。

   こうした状況がもたらすことは、障害者が地域で暮らすための準備をますます困難にし、施設やグループホームの中に隔離してしまうことになります。利用者自身も、多額の支払いのため、外出するためのお金がない状態にされています。
 また、職員を減らす施設もあり、食事やトイレの介助も遅れがちになっているという報告もあります。正規職員を減らし、パートの職員を増やしているとの状況もあります。あるいは、歩くことのできる利用者に、てんかん発作があるということで、施設の中では車椅子に座らせている通所施設もあるとの報告もありました。

●「精神障害者」7万2千人退院のペテン
 6月3日の集会では、精神保健福祉法の通院公費制度の利用者の9割しかまだ「自立支援医療」に移れていないことが報告され、通院を断念していることへの懸念が語られました。7月7日には、精神科の入院病棟をそのまま「退院支援施設」として、「支援法」下の施設に転換しようとしていることに対する問題が指摘されました。つまり、財源だけ福祉関係予算に変え、それで退院だということにしようとしているようです。ただ医療費削減だけが目的で、「精神障害者」は隔離のままということが実態とされそうです。

●動揺する自民党
 6月6日の日比谷野外音楽堂には、多くの国会議員が参加しました。秘書派遣も含めれば70人ほどの議員が参加していたと思われます。そして、その大部分が自民党議員なのです。主催、賛同団体が自民党の集票マシーンの一つであることを想像させます。そういう所が、今怒りに震えているのです。こうした怒りの前に、自分たちが賛成して通した法律に動揺した議員の発言が相次ぎました。そのいくつかを紹介します。

 「ご存知のとおり、厚生大臣を2度いたしました。皆さん方のご心配よく判っております。いわゆる障害者自立支援法というものは、理念はしっかりしているけれども、その具体的な中身においては、問題がたくさんある。ですから、具体的にこれを一つ一つつめてですね、ご心配のないように一生懸命やりましょう」(自民党衆議院、津島雄二)
 「今回の新しい法律が施行され、期待はずれどころか大変な悪影響を及ぼす恐れがあるんだ、という実態をうかがいました。これではいけないとわたしも率直に思いました。」(自民党衆議院・町村信孝)
 「もう厚生労働省の話を鵜呑みに聴く時代は終わった。」(自民党参議院・中村博彦) 自民党衆院の田浦議員は、妻が「知的障害者」施設の施設長をしているとのことです。「区分」の問題、入院者があった時の問題を語り「強く強く厚生省あるいは政府と交渉して行きたいと思っております。何せわたしも当事者ですからね」と。

 「どの面下げて今ごろ」とわたしも口走っていましたが「これだけたくさんの国会議員の方たちがいろんな問題点を指摘され、反対されている自立支援法は何故通ったのか?。これが不思議でなりません。今日皆さんが表明されたことはどうなっていくのかを、最後まで見届ける必要があるのではないか、と思います。」(自閉症者施設協議会会長)、「この法律はわれわれが選任した国会議員が決めているわけです。国会議員はその悩みを解消できなければ、明日から辞めていただく覚悟をするべきなんです。選挙の度に福祉・福祉と言って、自分たちは何を悩んでいるんでしょうか?」(施設家族連合会の方)との強烈な批判の発言も行われました。

 地域で生きることを目指すわたしたちとこの集会の主催者の方々は、立場をことにするかとも思います。しかし、ここで表明されている怒りは重要です。また、いくつかの発言の中で、施設から出すことを目指してきたのにこれでは、終身隔離をするようなものだ、との怒りも表明されていました。
 国会の衆議院厚生労働委員会をめぐって野党は「支援法」の実態について集中審議を行うべきである、と主張しています。3月22日にはそうした審議が行われる寸前まで行ったようですが、大臣、副大臣が不在とのことで与党につぶされたそうです。しかし、与党が動揺している今、秋の国会では取り上げさせましょう。わたしたちの撤廃署名も突きつけていきましょう。

 これらの集会では、多くの方々に怒りネット署名に協力していただきました。とくに、6月3日の集会では、4ケ所に出した署名の場が埋まりつづける状態でした。6月15日の自治労福祉集会への参加者にビラまきを行った際にも「本当にひどいですね」と声をかけていく組合員に出会いました。  JD緊急フォーラムの基調報告の中には次の一文があります。「私たちは、この状況に対して、高齢者など社会福祉のサービスを必要とする多くの人たちと、そして広く市民の人たちと連帯した大きな運動をつくりあげ、その大きなうねりによって、日本の社会のありようそのものを変えていく決意です。」わたしも同じ思いです。そして、そうした運動の発展の展望はますます開けてきていると思います。(7月12日『怒りネット通信21号』より)

 怒りネット(怒っているぞ!障害者切りすて・全国ネットワーク)では、8月下旬に障害者自立支援法の撤廃をめざす全国集会を開きます。個人の資格で参加できる集会ですので、一人でも多くの方々のご参加を!
 なお、署名の方もそれまでに再度集約を行なうということです。ご協力をお願いします。

集会タイトル
10月に全面施行される自立支援法は障害者抹殺法だ!
自立支援法10月全面施行絶対反対だ!・全障害者は生き抜くぞ!
「10月全面施行絶対反対!自立支援法撤廃を目指す全国集会」
日時:8月26日土曜日、午後1時開場、1時半開会
会場:東京都、文京区民センター3A
住所:東京都文京区本郷4−15−14
電話:03(3814)6731 地下鉄三田線大江戸線春日駅すぐ 資料代500円
※夜間交流会をします。