2年間のご無沙汰です。
 前号の「奈緒ちゃん新聞」復刊1号をお届けした97年6月から約2年、またまた堂々の再復刊です。あれから映画『奈緒ちゃん』はどんな人生を過ごしてきたのか、その報告をお伝えしたいと思います。パリ、宮古島など映画による上映だけでなく、ビデオでの鑑賞の輪も広がっています。
 12年間かかって撮られた映画です。あせらず、あわてず、12年間ぐらいかけてゆっくり観てもらえたら。。。と思っています。
 皆さんもこの2年間の出来事を思い出しながら、いつものように気楽にお読みください。
 

’99年春『奈緒ちゃん』はとうとう南の果て、沖縄・宮古島までたどり着きました。

 伊勢監督の友人の写真家であり、北海道・奈緒ちゃん応援団のリーダーでもある勇崎哲史さんが、20年以上かけて撮った沖縄。大神島の写真展が宮古島で開かれたのがきっかけでした。4月30日の上映には、奈緒ちゃん一家が空を飛んで駆けつけました。4人そろっての家族旅行はここ十年来なかったこと。それぞれに南の島での滞在をおおいに楽しんだようです。
 宮古島上映会を前にして「奈緒ちゃん新聞。宮古版」が発行されたり、前後に地元各紙が上映会のことを記事にしたりと、『奈緒ちゃん』旋風が宮古島を駆け抜けました。上映会場のマティダ市民劇場はアガイー顔でいっぱいでした。「アガイー」は宮古島の方言で、感動したときの叫び声のようなものです。映画『奈緒ちゃん』は宮古のゆったりした街の空気にもピタリとはまったようです。
 勇崎さんが、地元紙・宮古新報に寄稿した文章から抜粋してご紹介いたします。
 

伊勢真一監督との出会い

勇崎哲史

 それは4年前の秋のことだった。東京に住む親友I氏からの電話。「是非、紹介したい男がいるんだ」。男は僕の写真集『大神島。記憶の家族』と同じ心をもった映画をつくったという。映画の名は『奈緒ちゃん』。男の名は伊勢真一。
    〜中略〜
 今年の1月、宮古の人たちの並々ならぬ力添えで、僕の写真個展「光の絵日記」を平良市総合体育館で開催できた。宮古島での展覧会実現は僕にとっては永年の夢だった。伊勢も彼の友人たちを引き連れてその会場に駆けつけた。展覧が終わり、翌日みんなで大神島を訪れ、島のコミュニティーセンターで『奈緒ちゃん』を上映した。伊勢の顔は泡盛の酔いも手伝って、少年のように紅潮していた。
 実は、伊勢が引き連れてきたなかに、映画にも登場する奈緒ちゃんの弟。記一がいた。夢のような一夜が過ぎ、時間は僕たちに大神島を去ることを強いた。定期船「かりゆす」は、桟橋で手を振る島の人と僕たちとの間に、容赦なく海の繊毯をひろげてゆく。手を振るのを突然止め、記一は身体ごと船室の方に振り返った。「こんな・辛い別れってないっすよね」。遠のきつつある島に背をむけた記一の目に涙が溢れていた。瞳を涙で赤く染めながら、それを人に見られないように、記一は船室ヘ駆け込む。
 ほんの一夜なのに、なぜ記一は島の哀しさを感じることが出来たのだろう。僕は、親友I氏がはじめて伊勢を紹介してくれた時の言葉を思い出した。「『奈緒ちゃん』は勇崎の写真集『大神島。記憶の家族』と同じ心をもった映画なんだよ」。その意味が、ようゃくわかったような気がした。
    〜後略〜
(宮古新報’99年4月23日掲載)

 

「縁」はいいもの

西村 信子

 「奈緒ちゃん新聞」がお休みしている間に、映画のことでフランスヘ行ったり、またつい最近は、映画のことでは初めて家族4人そろって、沖縄の宮古島へ行ってきました。
 映画ができなかったら、おそらく一生のうちでも行けなかったかもしれない、フランスや沖縄行きの素晴らしい思い出や、その前に映画でまわった日本各地での人々との出会いや思い出も、ひとつひとつ忘れられないものとなっております。〈奈緒〉という子どもを育てていなかったら、これだけの・多くの出会いや思い出はなかった訳で、改めて〈奈緒〉がもたらしてくれることへの感謝を思います。
 伊勢真一さん〈私の弟ですが)は『奈緒ちゃん』以来、『ルーペ』『見えない学校』そして現在上映が始まっている『えんとこ』と、休むことなく次々にと良い作品を仕上げてノッているようで、彼の姉としてみた時にとても嬉しく、彼もまた〈奈緒〉という私の娘に出会ったことから、これら4つの作品へとたどりついたのかもしれないと、『えんとこ』を観終わった時、ふと思ったりしました。
 我が家の近況を報告しておきます。奈緒は2ヶ月に一回、一週間程度のグループホームの宿泊訓練を楽しみにする日々です。記一は進学を断念し、地域作業所「ぴぐれっと」で働いています。お父さんは不況の中、営業マンとして厳しい仕事ぶりの様子です。私はふれあいショップ「てん」の店長として、相変わらず仲間づくりに取り組んでいます。
 『奈緒ちゃん』の出会いの輪が、これからも広がりますように……。


映画『奈緒ちゃん』 ヨーロッパ上陸!
−−−’98年春−−
 第10回リール映画祭に行ってきました。
 フランス・パリの「リール映画祭」は、世界的に知られるドキュメンタリー映画祭。昨年の「日本ドキュメンタリー特集」は戦後の日本ドキュメンタリー映画の代表作を一挙上映するというものでした。『奈緒ちゃん』は’90年代の代表作として、選ばれたのです。
 日本から招待されたのは、黒木和雄、原一男、三浦淳子、伏屋博雄、伊勢真一らドキュメンタリー作家たち。伊勢監督は、実姉で奈緒ちゃんのお母さん・西村信子さんと共に映画祭に参加。以下は、パリ滞在中の伊勢監督から届いた報告の一部です。
’98年3月13日早朝
 さんざん待たされて18時30分成田出発。深夜にパリにたどり着きました。珍道中の幕開けのようです。ふたりとも健康状態は良好です。おそらく一生に二度とない姉弟旅行の機会をつくってくれたみんなに感謝します。充分に楽しんでくる心づもりです。
’98年3月15日朝9時
 今日はこれからいよいよ『奈緒ちゃん』の上映です。誰も観に来なかったらどうしよう、反応はどうだろうという不安で落ち着きません。まあ、ケセラセラですけど・・・・・・。
’98年3月15日午後4時
 第1回上映終了。日曜日の午前中のためか客足は鈍く、25名程の観客(うち半分近くは日本人)。しかし、反応はすこぶる良かった。フランス人との質疑応答の中で『奈緒ちゃん』が家族を描いた作品としてとてもすぐれているという評価が・多いのに驚きました。〜中略〜 第1回上映は成功、と報告して良いと思います。正直、ホッとしました。
’98年3月16日朝
 上映後の夜、他の作品を観るために会場にいると、ふたりのフランス人から「トレビアン!」「Very beautiful movie !」と声をかけられました。映像、風の気配、日常のせりふ等、言葉ではなく映像言語としてとてもよく伝わったという感想ももらいました。〜中略〜 願わくばもっとたくさんのフランス人の眼に触れることです。
’98年3月19日朝
 18日午後1時半からの第2回目上映は、ほほ満員の観客。 それもほとんどが1回目の上映の評判を聞いたフランス人でした。ファーストシーンの背広を気にするお父さんで笑い、ハルくんが奈緒ちゃんをしかるところで笑い、奈緒ちゃんとミエちゃんの電話に笑い、夫婦ゲンカに笑い。・・・・・、とにかく反応が極めてビビッドでした。「もう1回、もう1回と繰り返せば、この作品はもっとたくさんの人に観てもらえるようになるにちがいない」と言ってくれる人もいました。大成功です。−中略− 姉もとても積極的に映画祭のスタッフにかかわってくれて、日本から参加した人々ともいい関係の旅ができました。感謝!

 

あれから・・・

伊勢真一

 もう2年になります。「奈緒ちゃん新聞」をなんとか出したいなあ……。と思いつつ諸々の事情でずっとお休みしてしまいました。
 休みの間に、元来ボンヤリ系の私としては、めずらしく長編ドキュメンタリー映画だけでも2本の作品を完成させました。自分で自分をホメテあげたい気分です。
 2本のうち一本は『見えない学校』というタイトルで、ある私塾のグループとその周辺に生きる人々を描いた群像ドキュメント。もう一本は、この春に完成した『えんとこ』です。
 『えんとこ』は私の大学時代の友人、重度で寝たきりの障害者。遠藤滋さんと、彼を24時間介助で支える多くの若者たちとの関わりを描いたドキュメンタリーです。
 2本に共通しているのは、映画製作のきっかけがどちらも『奈緒ちゃん』の上映にあった、ということです。
 『見えない学校』の主人公たちは『奈緒ちゃん』を観て大変共感し、上映を広めることに大いに力を貸してくれました。そのさまざまな関わりの中から『見えない学校』という企画が誕生したのです。
 『えんとこ』は、主人公の遠藤が介助の若者たちと一緒に、映画『奈緒ちゃん』を地元で上映してくれることがきっかけとなって、カメラが回り始めたのです。
 一本の映画『奈緒ちゃん』が完成し、その上映の輪が広がっていく中で新しい関係が生まれ、新しい物語、新しい映画が誕生する。そのことに素直に従ってきた、という感じでしょうか。
 『奈緒ちゃん』を応援してくださった皆さんには、ぜひ『見えない学校』『えんとこ』を観ていただければと思っています。
 そのうち、また、また、『奈緒ちゃん』の血を引く次なる子ども(作品)が誕生するかもしれません。お楽しみに……。


シネマ下北沢へでかけませんか?
     伊勢監督3作品を一挙上映

『えんとこ』 〔えんとこ〕縁のあるトコ。寝たきりの障害者、遠藤滋のいるトコ。この映画は、遠藤滋と介助の若者たちとの日々を3年間にわたって記録したドキュメンタリーです。

『奈緒ちゃん』 映画『奈緒ちゃん』は重度のてんかんと知的障害をもつひとりの少女と、その家族の記録です。
そして、<彼女が家族に育まれ、家族が彼女に育まれた>12年間にわたる日本の家族の物語でもあります。

『ルーペ』 戦前・戦中・戦後にわたって、ルーペをのぞき続けたひとりの映画人の記録。この映画は、ドキュメンタリーカメラマンを描いたはじめてのドキュメンタリーです。

詳しくはこちら・・・



 奈緒ちゃん新聞名物、アンケート特集を今回もお届けいたします。パリ、宮古島の上映会会場で映画『奈緒ちゃん』をご覧になった方々から寄せられた声です。パリの香りの中でも、宮古島に吹く風の中でも、観客の一人ひとりが、しっかりと奈緒ちゃんとその家族に出会ってくださったようです。久しぶりの復刊号ですが、やっぱりこうやって皆さまの声をお届けできるのは、本当にうれしいことです。もう一度『奈緒ちゃん』に会いたい−そんな気持ちになってもらえたら最高です。

パリ上映会アンケートより

 病気そのものを見せるのではなく、子ども個人の生活、障害者の社会へのとけこみ、夫婦間にわき出た問題を見せた点を評価します。それらが深い感受性と美しい希望のメッセージとなっています。子どもの成長に沿った、12年という製作期問の長さも評価します。この映画の撮り方には子どもへの敬意がありました。
〈R・Mさん 55才 女)

 伊勢さんの映画の語り口のシンプルさと映画の構造そのものが好きです。各章の最後に出てくる音楽のような小さな一文一文が、とても気に入りました。それらが映画に永遠の悲しさとなって現われています。感動的で、とてもとてもあたたかい映画でした。
(E・Iさん 31才 女)

 軽い感じなのに深い映画でした。映画に流れる平穏さにおいて軽やかで、人の心と気持ちに光を当てている点において深い作品です。本当に美しい人生への賛歌です。とりわけお母さんの努力とパワーには感動しました。ブラボー!そしてありがとう。
(D・Lさん 28才 男)

 良い映画を観ました。凄い映画を観ました。なんだか清々しい涙が出ました。語り継がれ観継がれてほしい作品だと思います。
(H・Nさん 48才 男 自由業)

 思いがけないほど明るく、幸せな気分にさせていただきました。
〈O・Nさん 42才 女 会社員)

 長く日本を離れているので、家族のことを思い出して懐かしい気持ちになりました。私は彼女と同い年で、生きてきた環境はもちろん違うかもしれないけど、人として生きていく彼女とご家族の努力には頭が上がりません。私は何をしているのかということを、自問せずにはいられません。
(S・Rさん 24才 女 学生)

宮古島上映会アンケートより

 奈緒ちゃんはもちろん、人間ってすごいんだって、この映画を見て実感しました。
(T・Yさん 15才 学生)

 映画を見て、自分のオヤジを、オフクロを思い出していました。
(Y・Hさん 35才 男 会社員)

 奈緒さんへのおてがみ
 今日、奈緒さんのえいがを見て、奈緒さんのことをいろいろしりました。さいごに奈緒さんに会えたので、とてもうれしかったです!
(U・Yさん 8才 女 小学生)

 奈緒ちゃんのようにやさしい、素直な人になりたいと思った。
(N・Kさん 17才 女学生)

 すごく感動しました。わたしは奈緒ちゃんに、とても元気づけられたような感じがしました。
(N・Aさん 10才 女 小学生)

 障害児をかかえる両親のご苦労が感じられましたが、その苦労にもかかわらず、明るい一家なので、見ていて楽しさも感じられました。
(S・Tさん 女 公務員)

 何気ない風景の中に優しさや愛情を見せていただきました。なんだか嬉しくなり、元気になりました。
(T・Yさん 21才 女 保育士)

 「おやすみなさい」お父さんとの握手。健常者の家ではとても見られない姿、ほのぼのとした家族像がうかがえます。
(N・Kさん 53才 女 会社員)

 家族のスキンシップ。コミュニケーションのとり方、いいなあって感じました。
(K・Yさん 22才 男 作業所臨時職員)

 宮古島の障害児に、強い勇気を与えてくださいました。作業所設立のきっかけになればと思います。
(S・Eさん 48才 男 公務員)

 一回目に見たときは、お母さんをはじめご家族の皆さんの心的・物的苦労にばかり想像が向かい、はっきりいって楽しめなかったのですが、今回は少しリラックスして自分の家族の実際と比べながら見ていました。
(K・Sさん 38才 女 公務員)

 お母さんの話の中に、地域が一つになることが大切とありましたが、本当にそう思います。この映画で一人でも多くの人に理解してもらい、地球が一つの家族になるといいなと思っています。
(K・Nさん 40才 女 保母)

 私にもてんかんの子どもがいます。これから先の学校生活、社会人としてのことを考えると不安はいっぱいですが、この映画を観て、もっとまわりの人に隠さずに話していこうかと思います。
(S・Tさん 43才 女 看護婦)

 障害児(者〉にかかわらず、健常児〈者)にとっても家族・地域社会の与える〈力〉は大きいと思います。映画『奈緒ちゃん』はまさにその〈力〉を映した映画ではないかなぁと感じました。
(S・Sさん 29才 女)

 「奈緒と一緒にこの世からいなくなりたい」−そう言っても死ななかったお母さんはすごいと思いました。
(K・Aさん 12才 女 学生)

 この映画をまた、いつかどこかで思い出して、あたたかい気持ちになると思います。
(K・Jさん 39才 女 看護婦)

 自分が不足なく生まれてきたことにとても感謝させられました。一つの命の大きさを教えられたような気もします。
(M・Sさん 17才 女 学生)

 中学校に勤務していますが、ぜひ学校で生徒へも心の教育をしていきたいと思います。
(I・Rさん 43才 女 養護教諭)

 どんな状況の中でも、人は人としてよりよく生きることができるものだと、観た人々が学んだと思います。
(N・Cさん 51才 女 教員)

 お母さまの愛情がはっきりと表現されています。自分の母もそのようにしているだろうことをわからせてくれる映画でした。
(N・Yさん 58才 男 飲食業)

 映画を観る前に「奈緒ちゃん新聞」を読み、どんな映画なんだろうと楽しみになりました。一番印象に残ったのが、寝る前の握手でした。大きくなってからも変わらないこの習慣が、なんかうらやましく思いました。
(I・Yさん 15才 女 学生)

 みんなと仲よし。奈緒ちゃんのたんじょう日もうすぐだね。おめでとう。
(S・Eさん 17才 女 学生)

 親の愛情がいちばんですネ。
(S・Kさん 48才 女 保育士)

 娘の名前が〈奈緒〉で、なんかこれも縁があるのかもと思い、家族で来ました。記一くんの話の中の〈障害のある人こそ、幸せになってほしい〉という部分に、私も同感です。
(Y・Mさん 45才 女 幼稚園教論)

 奈緒ちゃんとお母さんのつないだ手と手に、とても感動しました。
(W・Sさん 39才 女 会社員)

 

ビデオ版『奈緒ちゃん』の輪も広がっています

 埼玉に住むK・Mさんが、『奈緒ちゃん』のビデオを一人でも多くの人に観てもらおうと、自宅のあるマンションでまわしみをしたそうです。マンションの方々からの感想が同封されたお手紙をいただいたので、その一部をご紹介します。
 フィルムで広がった上映会の輪とはまたひとあじ違う、ビデオ版『奈緒ちゃん』の輪が、今日もどこかでふわっと生まれ、広がっているかもしれません。

 

 『奈緒ちゃん』のビデオがマンションの友人たちの間を一周して戻ってきました。みんなにお礼を言われて得をした気持ちです。
(K・Mさん)

 お母さんの「奈緒ちゃんを育てていろんな人の輪が広がった」「どうせ障害を持ったのならみんなに愛される子に」といった言葉が印象に残りました。
(T・Tさん)

 7才と4才の子どもたちと観ました。子どもたちが「奈緒ちゃんを観たい!また観たい!」と言い、3日続けて一緒に観ました。一番印象的だったのは、弟ののり君が奈緒ちゃんをお兄ちゃんのように見守っている様子でした。そのようにのり君をお育てになったご両親のすごさを感じました。
(M・Yさん)

 季節の風景がとても美しかったです。それにしてもお父さん、おいおいって感じです。私だったらもうキレまくって怒鳴りまくってるだろうなぁ。でもあのお父さんの明るさ、のんきさが、奈緒ちゃんの明るさのひとつなのかなとも思います。
(A・Gさん)

 奈緒ちゃんのお父さん、お母さんが、地域の人たちとつながり、周りの人のおかげでここまでこれたとおっしゃっていましたが、私にはおふたりが奈緒ちゃんが障害児であることを家の中に閉じ込めず、協力を求めていらっしゃることが、どれだけ勇気がいることで、大変なことかと思えます。仲間づくりをして、共同作業所までに発展させられた奈緒ちゃんのお母さんに、いっぱいの拍手を送りたいと思います。
(K・Tさん)


 伊勢監督の最新作『えんとこ』が完成した4月、東京都内を中心に試写会が行われ、5月からは上映会が始まっています。完成した映画を観てもらうところまでやってこそ、ドキュメンタリー映画の監督の仕事は達成される、という伊勢監督の思いは、映画『奈緒ちゃん』の上映の輪が広がっていった体験から確信に変わり、今回も精カ的に上映活動を展開しています。
 『えんとこ』は、『奈緒ちゃん』を応援してくださった皆さんを含め、数多くの方々のカを推進カに、少しずつ共感ゃ感動の輪を広げつつあります。
 

 ■上映日程などお問い合せは『えんとこ』上映委員会(03−3406−9455)まで。

 

『えんとこ』はファーストシーンから居心地がいい

四宮鉄男(映画監督)

〜前略〜
 『えんとこ』はまったくストーリーのない映画である。
 そして、ストーリーのない映画は大好きだし、ある意味で私の理想の映画の形態である。ストーリーがないと、観客である私は、ゆったりと画面に身を任せて映画の流れにたゆたいながら見ていくことができる。反対に、ドキュメンタリーなのにストーリーがあると、なにか追い立てられるようで、どこかへ強制的に連れていかれるようでいゃなのだ。
 『えんとこ』にはストーリーがないが、100分間、スクリーンに揚め捕られていた。
 『えんとこ』は、決してエンターティメントではない。しかし、決して息苦しくはない。むしろ突き抜けた明るさがある。なんと言っても、遠藤さんの笑顔がいい。しっかり生きていると50代の男でもこんないい顔ができるのかと感動した。
 確かに、『えんとこ』を見ていると、〈お前は本当に今を生きているのか?〉と問いつめられてくる。叱咤されたり、励まされたりもする。しかし決して人に厳しい映画ではない。それが伊勢さんらしさなのかな、と思ったりもする。それで、見ている私は救われる。遠藤さんの生きるための奮闘ぶりを、言い訳をしないで見ていられるからだ。〈正義〉の前で言い訳をしながら映画を見ることほど辛いものはない。
〜中略〜
 『えんとこ』の遠藤さんは寝たっきりで実に豊かに自立していた。〈自立〉って、みんなと一緒に生き、みんなの中で生き、地域で生き、社会の中で生きることなんだなぁと、ごくごく当たり前のことが、今更のように再認識させられた。
 遠藤さんは若い介助者たちのネットワークに支えられて、豊かに自立していた。そして連想するように、「ペてる」のメンバーたち・の生き方に思いを馳せていった。「ぺてる」のメンバーたちが、〈浦河〉という地域の中で自立していることの大事さをあらためて認識することができた。
 そう考えてくると、『えんとこ』って、自立した遠藤さんの物語だけど、自立した介助者たちの物語でもあるんだなあと気づいた。「えんとこ」の介助者も、介助者のネットワークの中で生かされているんだもの。遠藤さんが寝たきりで良かったなあと、思う。それは、「ぺてる」の坂本さんが「今は精神障害者であることを誇りに思う」と語ることと同じ構造にある。 遠藤さんが寝たきりだったから「えんとこ」と出会うことができたのだし、遠藤さんが自立して生きるために戦っていたから、介助者も自立した介助者になれたのだった。
 『えんとこ』では、観客も自立した観客であることが要求される。というのも、『えんとこ』にはスーパーインポーズがない。遠藤さんの言葉はただでさえ聞き取りにくい。それがフィルムの端の細いモジュレーションの中に収録され、映写機の小さなスピーカーで再生されるともっと聞き取りにくくなる。それでも伊勢さんは、頑としてスーパーインポーズしない。きっと私なら、分かりやすくするために、たっぶりのスーパーインポーズを入れただろうと思う。
〜中略〜
 『えんとこ』では、ただ生きている姿をただ見せていれば良かった。それが、〈ただ生きる〉ということを伝えるための最善の方法だったからだろう。『えんとこ』は、エイガエイガしないで、それでいて、いかにも映画的な世界が構築されている素晴らしい映画である。
〜「別冊映像ひとり新聞」 第9号より抜粋〜

 編集部<注>
「ぺてる」 は、北海道。浦河町にある回復した精神障害者の共同体です。
四宮さんはペてるの家のドキュメンタリーを撮り続けています。

 

■アンケート『えんとこ』編■

 一人で力まず、いろんな人に支えられて生きていけばいいのだと思うとホッとしました。
(M・Oさん 29才 女)

 今、就職活動中で、やりたいこと、希望、たくさん出てきたのみ、それが可能かはっきりしない状況です。でも遠藤さんのコトバを聞いて、「なんでもやってみなよ」そう言われた気がします。力が出てきた気がします。
(Y・Oさん 21才 女 学生)

 画面を通して初めて見た方のはずなのに、見た、というより遠藤さんという人に出会ったという印象でした。
(T・Iさん 24才 女)

 遠藤さんは心の自由な人ですネ。
(Hさん 45才 女)

 自分から逃げないこと、もっているすべてを生かすこと、お互いに生かしあって生きていくこと。遠藤さんの言葉の一つ一つが胸にしみました。
(Y・Mさん 26才 女)

 伊勢作品は3作目です。いつもじわつと伝わってきて、力がわいてくるのです。下を向いていた私が、前向きに歩き出せるような……。
(K・Kさん 45才 女)


最・新・情・報 !
 伊勢真一ホームページができました。これまでの伊勢作品の紹介、上映会情報などのほか、皆さんからのご意見。ご感想をお寄せいただくコーナーもあります。ぜひアクセスしてみてください。
伊勢真一HPアドレス
http://plaza19.mbn.or.jp/~isefilm/

 

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〔お申し込み方法〕電話またはファクシミリで、下記上映委員会または奈緒ちゃん応援団
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